理想の恋じゃないけれど~ホテル・ストーリー~

結花は、会場に戻った。
別の人と話をする気もなく、様子をうかがうようにして全体を眺めていた。

壁際にぼんやり立ていると、通りがかりの人が話しかけて来てくる。
「飲み物でも、お持ちしましょうか?」
「いいえ、結構です。ありがとう」
何人かにそう言って断った。


気が付くと結花は、ツイードのスーツの男性を探していた。
多分ずっと、探していたのだろう。
彼はすぐに見つかっていた。

彼は、さっきラグジュアリースーツの男と話していた女性と話している。
ラグジュアリースーツの男がいなくなったら、二番手がツイードスーツの男なのだろうか?

彼と目があった。

失礼と、横の女性に断ってまっすぐこっちに向かってやってくる。
彼は、よかったと、安どの表情をしている。

「戻って来たの?」
「はい。誘われたけれどお断りしてきました」

「はあっー」と息を吐いて下を向いた。
「どうかしたんですか?」
「まったく、何をやってるんだろうって、今日ばかりは、自分を呪いましたよ」
「どういうことです?」

「実は、このパーティーに参加したのは、姉夫婦の策略で、入ってくるまでここに来たことを後悔していました。
上着も野暮ったく見えるようにと、父の古いジャケットなんか持ち出して、細やかな抵抗したんです。不躾なことしていれば、相手にされることはないかと。本当に浅はかでした」
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