キスする瞬間。
倉橋と渡辺君の話し声はこちらまで聞こえなかった。


電話の内容を理解した渡辺君が慌てた感じで
自分の席に戻る姿。
黒い手帳をペラペラとめくっている。


手が止まり額に指を付けた。
そして口に指をあてる。


「‥すみません。…すみませんっ」


独り言が段々と大きくなり倉橋の席に走り寄って行った。


「すぐに準備しろ。5分待つ。絶対に忘れ物はするなよ」


立ち上がりながら倉橋が渡辺君に指示して倉橋が課長の席に行く。


何かしらのトラブルがあったみたいだ。


「宜しく頼む。俺からも先方に電話しとく」


課長にお辞儀して倉橋が席に戻り椅子に掛けてあったスーツを羽織る。


顔面蒼白の渡辺君はアタフタとしながら出掛ける準備をしていた。


渡辺君に近寄った倉橋が一言、二言、言葉を発して渡辺君の背中を軽く叩いた。


多分、気合いを入れる感じで。


フッと息を吐き倉橋が顔を上げてみんなに視線を合わせる。


「‥騒がせたな。みんなは仕事に集中してくれ。騒がせてなんだが…」


倉橋の言葉に従うように各自パソコンに視線を戻した。


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