夢のひと時
取り残された私と先輩。確かに先輩に会いたかったけどこんな状況は予定外だ。先輩はスタッフを呼び、コーヒー注文した。このホテルにふさわしい落ち着きと上品さで、ひとり動揺している自分が場違いな存在に思えてくる。

沈黙が気まずくて、「高校の頃から書いてたんですか?」と質問する。

「書き始めたのは大学入ってから」

三上猛のデビューは私が大学一年の時。先輩もまだ二年生だったはずだ。

「凄いですね。でも、まさか先輩が三上先生だとは思いませんでした」
「プロフィール非公開だからね」
「理由を伺っても?」
「きちんと認められるまで知られたくなくて」

だから授賞式の時に初めて顔を出したんだ。

「君に。三上猛が僕だってことを」
「え?」
「きちんと世に認められた作家になってから君に知って欲しかった」

私はからかわれているのだろうか? だって私は先輩とほとんど接点がなかったのに。それに先輩はこんなに話す人じゃなかった。

「あ、僕が昔と違って驚いてる? あの頃は君が『冬と旅人』の主人公みたいな寡黙な人が理想だと聞いたから図書室ではあまり喋らないようにしてたけど、こっちが本当の僕なんだ。ごめんね」

一気に言った先輩が私に微笑んだところで、コーヒーが運ばれてきた。先輩はそれに口をつけ、また話を始める。
< 7 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop