夢のひと時
「読書の好みが合う後輩が気になってたけど何もできなくて。僕も小説を書いたら興味を持ってもらえるかと思ったのがきっかけ。デビューしてすぐ伝えたかったけど一発屋だと格好悪いし、大きな賞が取れるまで正体を明かさずに書くって決めたんだ」

何これ。

「賞を獲って、作家としての僕を知ってもらうことが目標になってた。だからようやくそれが叶って嬉しいよ」

先輩の顔を見れなくなって視線を下に向ける。
私自身は沢山の本に影響されて生きてきたけど、まさか自分が誰かにこんな影響を与えているなんて考えたこともなかった。しかもそれがずっと憧れていた先輩だなんて。

もしかするとこれは夢かもしれない。


「ねぇ、高原さん、良ければ僕と、今夜ここで星を見ながら食事でもいかがですか?」

この言葉を私は知っている。『冬と旅人』の主人公が告白の代わりに想い人に告げた言葉だ。

やっぱりこれは夢だ。こんな小説のような出来事が起こるわけない。それに私はこうやって会えただけでもう十分満足しているし、これ以上のことを望むと本当に夢から覚めてしまうかもしれない。
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