俺様御曹司による地味子の正しい口説き方 ※SS集
「杏、迎えに来た。帰るぞ?」
笑みを浮かべたまま一歩一歩、歩みを進めて私に近付く恭一君を割けるように花道が出来上がる。
なんだってこういちいち登場が派手なんだろう。
思わず苦笑したまま合わせていた筈の視線が不意に反れて眉を寄せる。
恭一君の視線を追って目をやると、杉本先生に捕まれたままの手。
うわっ、ヤバイ!
杉本先生も視線の先に気付いたのか一瞬の動揺が見え、ほんの少しだけ緩んだ隙をついて手を振りほどいた。
そのまま恭一君の元に逃げる。
表面上笑顔の恭一君の裏からどす黒いオーラが見える。
怖いッ、けど恭一君の顔を見ただけで心が落ち着くのが分かった。
「恭一君、、ごめん。でもホッとした」
友人達の手前、抱きついて安心したい気持ちを抑え恭一君の腕の辺りをキュッと掴む。
あぁ、怖かった。
何かをされたわけではないが、話の通じなさと囃し立てる意地悪な台詞。
理不尽な物言いに「煩い!」と叫びそうになった。
安堵と共に訪れる気の緩みから、少しだけ目尻が滲む。
恭一君の怒りが私に向いているわけではないことも分かってる。
だけど、今は優しく抱き締めてほしかった。
「杏、後からちゃんとギュッってしてあげるから」
耳元に口を寄せて、私にだけ聞こえるように囁いてくれた。
反対の手で頭を軽く撫でながら。
いつもなら恥ずかしく思えることも、嬉しくて「うん」と頷いた。
早く、帰りたい。