都会の片隅で
ジュリエット
咥えた指輪を口にして、あたしは雑踏を駆け抜けていく。

だって、全く何やってんのかしらこの二人。

猫のあたしから見たって、どう考えてもお互い好き合ってるんだから、素直に仲良くすればいいじゃない。

この二人が仲直りできそうな場所を考えてみたら、思い付くのは一つ。


あのきらきらしてる窓が沢山ある白い大きな建物。


アカネが行きたがってたんだから、あそこに連れてっちゃいましょ。

あたしは追ってくる二人をつかず離れず誘導して、あの大きなホテルの前までやってくる。


正面入り口には広い車回しが有って、ぴかぴかした車が停まってて。
入口の扉の横にはドアマンらしい制服を着た人が立っていて、脇から飛び込んで駆けてくるあたしに気付いたらしく、目を丸くしてこっちを見てる。

あたしは駆ける足をそこで止めて、追ってくる二人を待つことにしたの。

それより早くあたしの傍に来たドアマンが、あたしが足元に転がした指輪を拾い上げて、何これ、みたいな怪訝な顔であたしを見下ろしてくるのが妙に可笑しい。

やがて漸く追い付いてきたマサヤと、すっかり息を切らせたアカネが来たから、あたしはその場に座り込んでやったわ。



「すいません、その指輪、俺のです。
そこの猫が勝手に咥えて持ってっちまって……」



ドアマンが手にしている指輪を目顔で示し、マサヤが説明しようとしてる。

それだけで大方察しがついたのか、快く笑んだドアマンは彼に指輪を返そうと差し出したの。

それを受け取り掛けて、けれどマサヤの手は、そこで不意に止まったわ。


そしていきなり、隣でまだ息を切らせてるアカネの肩を、抱き寄せたの。



「すいません、予約してないんですけど、部屋、空いてますか。
ツイン、…いえ、ダブルルームで」



その瞬間、アカネの頬が、ぱっと薔薇色に染まったのが見えた。

多分これで、きっとうまく行くわね。


感謝してよ、アカネ。男はね、やる時はやるんだから。
マサヤも、あたしも。

あたしの場合、心はレディだけどね!

さて、沢山走ったから、ちゃんと毛づくろいしなくちゃ。
今日はもう、アカネはブラシを掛けてくれなさそうだから。




【end】
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