摩天楼レボリューション
「そうだよな。人それぞれ、事情があるもんな」


それに促される形で私はギクシャクと顔を上げた。
かなり失礼な事を言ってしまったのに、黒須さんの表情も口調もとても穏やかで優しかった。


「俺も、学生の頃は訳知り顔で説教して来る大人は大嫌いだったのに、いつの間にかそちら側の人間になってしまったようだ」

「そ、そんな…」

「ひとまずこれ、いただいてしまおうか」


そう宣言した後、黒須さんは料理を食べるのに専念し出したので、私もそれに倣った。

メインが終わった所で、ワゴンに乗ったいくつものチーズが運ばれて来る。
黒須さんの予想通り、好みの物を選ぶ為にスタッフさんとあれこれやり取りを交わす事となった。

しかし言葉を発したのはその場面だけで、スタッフさんがチーズを盛り付けて去った後、お互いに無言でそれを食す。

デザートも同様にワゴンに乗っている物の中から自由に選ぶ仕組みで、黒須さんはバニラアイスとフルーツをチョイスし、私はシフォンケーキに生クリームを添え、果肉がゴロゴロ入ったラズベリーソースをかけてもらった。

これまたお互いに無言でスプーンとフォークを手に取り、それぞれ適量を口に運ぶ。

ソースの上品な甘酸っぱさ、クリームをまとったフワフワフカフカとしたスポンジの尋常じゃない舌触りの良さに、こんな状況じゃなければ感嘆のため息を漏らす所だけれど、当然それは飲み込んで、ひたすら黙々と食べ続けた。
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