不思議の街の不思議な話

ケイレブ



アーチ型の入り口をくぐって奥に歩み進めると、ドアがずらりと並んだエリアに差し掛かった。依然として廊下にはここは図書館だからということなのか、壁を抉ったところが本棚になっていて、本こそあるものの、本の数は随分減ったと思われる。

私の視界の低いところで、幼い子供のようにキャッキャと跳ね回りながら腕を引いて歩いていくレイリーの様子は、純真そのものだ。先ほどまでの小生意気な感じは何処へやらだ。私の戸惑いをよそに、振り返ったレイリーが見せた輝くような笑顔を見て、天使と言わずして一体なんなのか。そのくるくるの赤毛をくしゃくしゃにしてしまいたいほど愛らしい。

ブランとアルトはどうしたかと思い、不意に後ろを振り返ると、数メートルおいてノロノロとついてくるアルトの姿が見えたが、ブランは見当たらない。

私が不安そうな顔つきをすると、「心配進展じゃねー。」というようにアルトに睨まれた。仕事にでも行ったのだろうか。だったら一言くらいくれてもいいのにと、私はむくれてしまう。



その後、レイリーには部屋を一つ一つ案内された。どの部屋も埃っぽかったが、家具の状態も良く、すべて備え付けで揃っていた。どうかすれば、食器棚の中には高級品らしき皿がそのまま残されていたし、クローゼットの中に豪華なドレスや宝石などまであるものもあった。これらは使ってもいいのかと尋ねれば、レイリーは満面の笑みで「いいよ。」と答えたので、驚かずにはいられない。太っ腹にもほどがあるだろう。

アルトは部屋選びの間、終始まるで、女性の買い物に無理やり付き合わされた男性のように、退屈そうにあくびをしたり、宙をボーッと見たりして暇をつぶしていた。

部屋はどれも同じ大きさで、家具の数や種類こそ違うものの、似たり寄ったりで大混戦。結局レイリーが20部屋目に案内しようとしたところで、この永遠に続く部屋探しに終止符を打とうと、私は最後19番の部屋にすると咄嗟に行って契約は成立した。


結局、契約書に何が書いてあったのか、一体交換条件に何を私はやらされようとしているかも定かではないが、私はそれでもブラン、アルトのことを信じ始めていたから、大変なことにはならないと思っていた。


レイリーに関しては、初めはどうかと思ったものの、今はなぜか普通の子供に戻ってしまっていて、何とも言えない状況である。
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