不思議の街の不思議な話

隣の見知らぬ男



図書館のセントラルエリアは、大きな正面入り口から入る光が多いとはいえ、それ以外に窓などは見当たらず、館内の明かりのほとんどをシャンデリアの照明に頼っている。

当然、時刻など、時計がないとわかるはずもないのだが、奥の部屋が立ち並ぶエリアから一般閲覧エリアに戻って来れば、いくらか時刻が過ぎた様子は明らかであった。

人の波のピークは過ぎ去ったようで、残った人は長机に点在する、遅くまで勉強を頑張る人と、どういうわけか眠りに落ちてしまった人。そしてたまに、まだ本棚の辺りを探している人も見かけたが、それでも随分とがらんと静まり返っていて、昼間とはまた全然違った、ミステリアスで落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

これからの計画について不思議になった私は、アルトに尋ねる。

「ねぇ、これからどうするの?」
「とりあえずブランの奴が帰ってくるのを待つしかねーだろ。」

ふあっと欠伸をしたアルトは、床にベタんと伏せして目を瞑った。

辺りは気温が下がり始め、肌寒くなり始めていた。

「ちょ... ちょっと、こんなとこで寝るつもり?」
「んあ。」

気の無い返事で、半分夢の中に入りかけていたアルトが答える。

「こんなとこで寝たら風邪ひくよ。」
「ひかねーよ。俺はこの毛があるし、そんなにヤワでもねぇ。」

むにゃと口を動かして、アルトが再び眠りに落ちようとする。アルトにこんなところで寝られては、私は一人で待ちぼうけになってしまう。

「起きて!」
「ヤダ。」

きっぱり断るアルトの耳を思い切り引っ張った。

「てててて!何すんだクソガキ!」
「無計画すぎるわよ! ... 大体、ブランを待つってブランはそれを知ってるの?しかもここで待ってるってわかってるの?」

スッと上体を起こしたアルトは、「ああそういえば。」と不意をつかれたように天井を仰いだ。


私はダメだこりゃと、思わず手で顔を覆う。
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