不思議の街の不思議な話

アビゲイル

それから、ブランはアルトに礼を言って、図書館の中央入り口のあたりで別れた。入り口の扉はもう閉められており、外も真っ暗で、静まり返った館内は人っ子一人いない。

私とブランを除いては。

改めて二人きりになれて、密かに心が躍る私とは裏腹に、ブランの顔は曇っている。

そうは言っても、私が心配そうに見つめれば、一応軽く笑みは返してくれて、私は内心安堵する。

それから、ブランは再び黙り込み、カツカツと足音が響く廊下をキビキビと歩き、私は時々小走りになりながら、彼について行こうとする。

「..ごめん、オレ歩くの早いかな?」

ブランが私を気にかけて尋ねて、そんな細い気遣いも嬉しい。

「ううん。」

私は首を横に振った。そうするとまた、ブランはクスと微笑む。ブランの微笑みは私の心を解きほぐす。


ーーーーーーーーー


行き先と、これからの計画は聞かないで、ブランの後についていくと、ブランはと奥まったエリアにある、一見するとそこら辺にありそうな本棚の前で立ち止まった。

そして徐ろに、コートのポケットからジャラジャラと鍵の束を取り出した。さらに一冊の本を取ると、その奥にはなんと鍵穴が!

「何?秘密の通路?」
「惜しい。」

そう言って、鍵穴に鍵を刺すと、ゴゴゴと音がして本棚が横にスライドし、そこに現れたのは…

「エレベーター?」
「正解。」

手動の格子扉を開けると、ブランは手を差し出した。


「エレベーターと床の間に少し隙間があるから気をつけてね。」


ブランはとても紳士で優しい。いつものブランだ。彼は通常運転に戻りつつあるように思えた。
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