男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
すると、リリィの顔から笑みが消えた。
しかしそれは、不機嫌になったからではなく、「あら、アミルお兄様に聞いてないの?」と意外そうな顔で見られただけ。
そしてグラスの水をひと口飲んでから、彼女は私の知りたい答えを教えてくれた。
「小さい方の男の子は、アベルお兄様。アミルお兄様の二歳下の弟よ。アベルお兄様は十六歳のときに、事故で亡くなられたの。
私はその頃、幼かったから、詳しいことは知らないし、アベルお兄様のことも、あまり記憶に残っていないのだけど……」
リリィの声に、深刻そうな響きはなかった。
記憶に残らない幼い日の出来事なので、心の傷は浅いのだろう。
リリィに合わせて私も悲しげな顔はせず、平静を装って食事を口にしながら、頭の中だけは忙しく状況を整理する。
大公殿下と弟君の歳の差は二歳。
亡くなられたのが十六ということは、七年前ということになる。
それは殿下が大公に即位された年だ。
父である前大公がご病気で亡くなられ、十八の若さで大公に即位するという大変なときに、更に弟が事故で亡くなるなんて……。
その事故とは、どういうものだろうと、ふと気になった。
リリィは先ほど『幼かったから、詳しいことは知らない』と言っていたので、事故内容を聞いても答えは得られないだろう。
それで別の質問に変える。「大公殿下はいつから髪の色が変わったんですか?」と。