男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
ジャコブに見送られて部屋を出た私は、屋敷の外へ。
昇ったばかりの朝日が、広大な前庭の緑や池の水面を輝かせている。
季節は夏でも、この辺りは涼しい気候なので、早朝とあれば肌寒いくらい。
辺りはバラの香りが漂っていた。
赤、白、ピンク、手入れの行き届いたバラの花が、庭の一角を華やかに彩っている。
バラの香りを嗅ぐと、反射的に大公殿下を思い出す。
執務室に初めて入れてもらったとき、長椅子に冗談で押し倒され、驚きながら感じたのは殿下の髪から香るバラの香りだった。
思い出したことで頬を染めてしまったが、バラから遠去かり、青の騎士団の詰所前まで来ると、気持ちは完全に試合だけに戻される。
石造りの要塞のような大きな建物には、両開きの鉄の扉があった。
普段は固く閉じられているのだが、今は開かれて、そこを大勢の屈強そうな男達が出入りしている。
私も人の流れに乗り、細い通路を通って奥へと進むと、ポッカリと開けた場所に出た。
そこは室内闘技場。
天井は高くドーム型で、五百人は入れるだろうと思うほどに広く、周囲を囲むように階段状の観客席までついていた。
その客席は半分ほどが埋まっていて、人々の身なりの良さから推測するに、貴族や裕福な商人の家族たちなのだろう。
年に一度の剣術大会が、この街の娯楽にもなっているのだと感じていた。