男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
クロードさんが開けてくれたドアから、揃って謁見の間に入ると、バルドン公爵はイライラした様子で椅子から立ち上がった。
私が壁際に控え、殿下が玉座に腰掛けると、公爵は開口一番、「ワシは怒っておりますぞ」と苦情を口にした。
バルドン公爵が訴えたいことは、四日前の舞踏会のことみたい。
殿下がエリーヌ嬢とのダンスを拒否して、私と踊ったことを、まだ根に持っているようだ。
「可哀想なエリーヌは、殿下のせいで塞ぎ込んでおりますぞ。
美しいエリーヌより、そこの騎士もどきの少年と踊るとは、なんと情けないお心ではありませんか。
殿下は男色だと噂されていることを、ご存じないのですか?」
「知っているが、放っておけばよい。
くだらない噂話だ」
「くだらなくありません!
殿下は男色ゆえ、いつまでも妻を娶らず、このままでは世継ぎが生まれないのではないかと、民は心配しておりますぞ」
妻や世継ぎという言葉に反応して、私は思わず顔を赤らめる。
私を妃に考えていると、昨日、殿下に言われた言葉を思い出しているからだ。
でもそれは教育期間が終わった後のこと。
ということは、二年半以上も、殿下はこうして公爵に文句を言われ続けることになるのだろうか……。
七年前の話を知って、気づいたことがあった。
かつての殿下は、叔父である公爵に敬語を使っていたが、今は逆で、公爵が敬語を使っている。
大公に即位してからも下の者に敬語を使っていては、権威が揺らいでしまうからだろう。
口調だけを考えれば、そこに絶対的な力関係がありそうに思えるけれど……殿下はこうして、バルドン公爵の文句を聞かなければならない立場にあるようだ。
公爵は貴重な薬や香辛料などの流通を掌握しているそうだし、なにより叔父と甥という昔からの関係は、即位したからといって崩せるものではないのだろう。