男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
早く結婚と世継ぎをと言われ、殿下は不機嫌そうに口をつぐんだ。
横目でチラリと私を見たのは、『今はまだ無理なんだ』と、心の中で反論しているからだろうか……。
兄の代わりに教育を受けなければならないというのは、フォーレル家の事情で、殿下のせいではない。
恥ずかしいやら申し訳ないやらで、肩を竦めていたら、バルドン公爵が声を荒げた。
「殿下、聞いておられるのですか!」
「さっきから同じことの繰り返しで、聞く気が失せる。後継ぎのことは考えているが、今はまだ妻を娶る時期ではない。もう少し待て」
「そんな悠長なことを言っておりますと、都が混乱しますぞ? 七年前のように」
「なんだと?」
急に過去の話を持ち出した公爵を、殿下は鋭い瞳で睨みつけた。
両者は視線をぶつけ合い、嫌な沈黙だけが流れている。
ハラハラして、ふたりを見守っていたら、先に口を開いたのはバルドン公爵だった。
また都に邪視の少年が現れ、変死騒ぎが相次いでいることを口にして、その理由を語り出す。
「殿下がいつまでも世継ぎを作らないからだと言われておりますぞ。大公家に不安があれば、都も落ち着かん。忌まわしいものまで呼び寄せる始末だ。邪視に呪い殺された者たちは、殿下の不甲斐なさを恨んだおることでしょうな」