男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
廊下にトマトソースの香りが漂っているのは、すぐ側に厨房への入口があるからだ。
下働きの使用人たちが厨房、廊下、裏玄関を行き来しているが、みんな忙しそうで、私を見てもすぐに目を逸らして気に留める様子がないのは幸いだった。
今日の午餐のメインはトマトソースで煮込んだ羊肉だろうか?と想像しながら、裏玄関から外へ。
難なく屋敷を抜け出した後は、並木の間に続く土の道を歩いて裏門へ。
そこには門番がふたり立っているけれど、歩きながら観察したところ、入る者のチェックは厳しくても出て行く者にはチラリと横目で見る程度の関心の低さ。
これなら簡単に騙せると思った私は、歩く速度を少しだけ落とした。
斜め前には空の荷車を引いて歩く男がいて、その荷車の後ろに入ると、押しているような振りをして裏門まできた。
門番は食材の入ったカゴを背負った男の、入城チェックをしている最中だった。
その視線がチラリと私に向けられたのを感じたが、止められることはなく、何食わぬ顔をして横を通り過ぎ、無事に城外へと脱出すると、心の中で『やった!』と喜びの声を上げた。