『コーン』な上司と恋なんて
「クゥン」と鳴くワンコの声にハッとした。
振り返れば課長はまだそこに居て、ボンヤリと海を眺めてる。


「か…課長」


背中に向かって声をかけると、気がついた人がこっちを向いた。


「すみません。課長もご祈願の途中だったんじゃないですか?」


立ち去りもせずにいることが不思議でそう聞いた。

課長は私の質問に「いいや」と答え、「日当たりがいいから日光浴してただけ」と仰る。


「そうですか。じゃあ私は上がりますね」


下りてきた階段の方に足先を向けて行こうとしたら、後ろからついて来る。


「あ…どうぞ。お先に」


階段を上るのなんて久しぶり。オフィスでもエレベーターを使うし、マンションも二階だからほぼ上がらない。


「いいよ。こっちは老犬連れてるからゆっくり行くし。気にしないでいいから」


老犬と言われるワンコの様子を窺う。
イヌの年齢が何処で決まるのかは知らないけど、そんなに年寄りなのか、このゴールデンは。

ハァハァと舌を突き出してる姿を目に留めて踵を返した。

下りがスイスイ行けた分、やっぱり上りはキツい。

しかも行きは向い風だったのが追い風になって、それが後頭部に直接当たって寒い。


(しまった〜、帽子持ってくれば良かった〜……)


課長がニット帽を被ってるのが納得できたような気がする。
この寒さならせめてフードがないとやれない。


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