『コーン』な上司と恋なんて
「は、はい……」


踵を返して歩き出しながら(そうだ。一緒にお参りに来たんじゃなかった…)と思い出した。

まさか、こんな場所で課長と遭遇するとは思わなかったから、勘違いしそうになってた。


私は此処に彼氏となるべき人との縁結びをお願いしに来たんだ。

結婚退職願望があるから経済力のある人と限定してきた。

お稲荷さんイコール宝クジの当選が頭の中に浮かんだ。だから、本来はしないだろうと思われる稲荷神社での縁結びを願ったんだ。



(そうだった。つい仕事モードに入りそうだった)


こんな場違いな所で上司なんかと会うもんじゃない。
目的は果たしたんだし、後は御神籤を引いて帰ろう。



(……それにしてもこの坂、急過ぎない?)


下りが余りにもスイスイ歩けたもんだから、どうにも上りは苦しい。
課長のワンコじゃないけど、とにかく息が乱れる。



(ちょっと休もう)


足を止めて背中を伸ばした。さっきよりも体はポカポカしてあったかいけど息は白さを増してる。


乾ききった喉に唾液が引っ掛かっていく様な痛さがある。
それを和らげるように手袋をはめた手で覆った。



(……もう少しだから頑張ろうか)


前を向くと終わらない様な気がするから下を向いて歩こう。
この千本鳥居が切れたらそこが到着地点だ。


気合を入れ直して歩き出そうとした時、下からハァハァという息使いと足音が近づいてきた。


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