目を閉じてください
駆け付けた警備員に連れて行かれた男性。
30代と見られる男は、無精髭がうっすら伸びたボサボサの髪、やせ形でよれよれのスーツ姿だった。
「…ご迷惑お掛けしました」
項垂れる女性。
背中まである髪をカールした、目鼻立ちのはっきりした30歳くらいのきれいな人だ。
やはり着ているものは生地の良さそうなスーツ。
「11階の化粧品会社の営業主任をしてる橋原紅子(ハシハラ コウコ)と申します」
道理で綺麗な訳だ。
人目を避けるために1階の受付レセプション脇にある方の警備員室で、落ち着いて話を聞き名刺を渡された。
基本、地下5階に管理人室と警備員室があり、駐車場のトラブルはそちらが担当らしい。
「……兄なんです。事業がうまく行ってないというのは聞いていたんですが。まさかここまでとは思わなくて。お金に困ってるから貸してくれって言われて」
一度は断ったけれど、公にされたくない自分のことを彼氏に話すと脅されたらしい。
彼女にとって少しだけのつもりが、後ろで見ていた兄が、咄嗟にボタンを操作して多目に出すと、そのまま持って逃げようとしたらしい。