不審メールが繋げた想い
「そうね…、じゃあ、お願い出来る?」
「はい、勿論です」
真さんの笑った顔はお母さんに似ているのかな。お母さんの笑った顔は穏やかで優しいものだった。
「私のだけどエプロン使って?」
首を通していると、後ろで結んでくれた。この行為は真さんとの事とはまた別のドキドキがある。
「有難うございます」
「真はどう?優しいかしら?」
わっ、早速、会話が…。
「はい。…とても…」
…下手だな…女優にはなれないわね。
「そう…。もう、若い頃とは違うから、荒っぽい事は無いと思うんだけどね。見掛けと違って、昔はね、頑固者だったのよ?こうと決めたら聞かなくてね。無口だし、本当…頑固者で…。真から聞いてるかしら。父親にかなり反対されてね、大変だったのよ?」
では、反対を押しきらなかったら芸能人になってなかったかもしれないんだ。画面を通して…出会うことはなかったかもしれない。…あ、つい考え込んじゃった。
「…母さん」
「あら、偵察?」
真さん…はぁ、良かった…。
「ああ。詩織が驚くような事、勝手に話されると困るからね」
「大丈夫よね?何を聞いてもこの子の事なんだから。嘘も隠しもしないわ。何でも聞いて?
小さい頃の事から私は何でも知ってるから、当たり前ね?親なんだから」
「フフ、はい。是非」
「だから勝手に…」
「はいはい。お口、チャックしたらいいのね」
「ああ…」
「手伝って貰う事はほとんど無いのよ。ね?もう大方出来てるから」
「そうですね。美味しそう…ぁ」
普通に呟いてしまった。料理はほぼ出来ていた。焼き魚や煮物があったり、和え物があったり。早くから準備をしてくれていたんだと思う。いつもより量の多い調理。きっと体調を考えながらだ。元気にされているとは聞いていたけれど、御飯の準備でいつもより疲れさせてはいけないと、だから少しでも手伝えたらと思ったのだけど。
「フフ。ごめんなさい?何か取れば良かったのだけど。うちの味も知っておいてほしくて。普通でしょ?お口に合うといいけど。私は普通だから。家だって、この子が建ててくれたから住んでいるけど。私は一般人だから。一般人の真の母親だから。真も、普段は普通。仕事は仕事よ。
あとは天ぷらを揚げるだけだから…。野菜を切って貰おうかしら。きすと、蛸もお願い出来る?
テーブルで揚げながら食べましょ?」
「はい、先にこれ運びますね?」
「あ、そうね、お願い。ほっぺが落ちそうなくらい美味し~い高級料理は、この子に思う存分、連れて行って貰って?食べる事くらいにしか、お金使わないから」
「はい、いつもっていう訳にはいきませんが、遠慮無くそうさせて頂きます」
家庭をもったらという、“仮定”で、話してみた。
「まあ、フフフ。家庭的ね。正直で素直な人ね。…良かった、女優さんとかじゃなくて。女優さん皆さんが嫌って訳じゃ無いのよ?いい人だって沢山居ると思うのよ。
でもね、真と噂のある、あの何て言う名前だっけ、とにかく、あの女優さんは駄目、嫌いなの。歳だって随分離れてるし…」
…、あ。真さんを見た。私、なんだかこんな事をしてる事が心苦しい…。だって、私だって…。
「まあまあ。それは事情は話しただろ?違うんだって。仕事上の事で誰にも言っちゃ駄目だって。口、チャックでなって。
な?母さん。長~く待ってみるもんだろ?タイミングってあるんだよ。何も若いうちに、結婚、結婚て、焦らなくて良かっただろ?俺は詩織に会う為に今まで結婚しなかったんだから」
「本当にもう…この子は。ものは言いようね。でも、これで一安心かな…」
「母さん…」
うっすらと目が涙で潤んだように見えた。
「スー…、なんだかごめんなさいね。お父さんにも、詩織さん、会わせてあげたかったわね。あ、きっと解ってる、見てるわね」
…真さん、こんなのは駄目です…益々、苦しいです。