不審メールが繋げた想い
ご飯の時も、隣に座った真さんに助けて貰いながら、何とか上手く話せたと思う。緊張もあったけど、穏やかで温かい時間だった。だからこそ…もうこれ以上は本当に苦しい。

後片付けは私がする事にして、お母さんには休んでもらう事にした。元気そうに見えていても、他人が居る事で疲れが出るかも知れない。これ以上、無理をさせてはいけない。
先にお風呂に入ってもらう事にした。


「詩織、有難う。本当に有難う。母さん喜んでいた」

「…はい。だとしたら、それは良かったと思いますが。でも何だか私…」

「解ってる。ごめん、重いよね、こんな事になって」

「お母さんが喜んでくれればくれるほど苦しくて…」

健康だったら、騙していいって事でもない。

「うん。…ごめん。ここ片付いたから珈琲でも飲もうか」

「…はい」

「座ってて、俺がするから」

「…はい、有難うございます」

はぁ、エプロンを外して先に椅子に腰掛けた。


真さんは珈琲カップを手に側に来た。

「あっちに行こうか」

「はい」

ダイニングからリビングに移動して、革張りのゆったりとしたソファーに腰を下ろした。

「はい、どうぞ」

「有難うございます」

私の隣に座った真さんは自分の肩に私の頭を乗せた。

「あ、あの…」

「…いいから、こうしておいて」

「…はい」

肩を抱かれた。

「え!あの…」

「いいから、このまま…それに、あまり大きな声で驚いちゃ駄目だ。…母さんに聞こえる」

あ、そうだ、気をつけなきゃ。…きっとこれは雰囲気作りの為なのね。

「…はい」

「急にごめん。来るだけでも疲れたのに、大丈夫?気を遣って疲れただろ?」

…真さん。

「…ちっとも。大丈夫です、真さんが助けてくれたから」

「知ってるかもしれないけど、俺には姉が居る。もう結婚していて、大きな子供も居る」

「はい」

知ってる。Yさんの事なら公にされてることは知ってる。

「俺はもうかなり前から叔父さんだ」

「はい」

凄く可愛がっていることも知ってる。

「母親は俺の子…、孫の顔が見たいなんてずっと言っていたが、姉のとこの子供も居る。だから、俺が独り身じゃなければいいかって今は思ってる。
俺も、確かに子供は欲しいかなと思った時もあったんだ。姉の子供と一緒に遊んだりしてると可愛いなぁって思うんだ。
そうしてると、反面、居なくてもいいかなとも思うんだ。俺に子供が居なくても、叔父さんとして可愛がれる子供が居るから。そう思っている事も母親は解って来たみたいなんだ。フ…。段々、俺の結婚に対するハードルも下げて来たよ。誰か一緒に居てくれる人が居れば、それが一番だって…。現実はまだ独身だから、解決に至ってない訳だけどね」

…真さん。

「明日、各務が迎えに来る。俺も一緒に駅まで行くけど…いや、正確には駐車場までしか送れなくて申し訳ないんだけど、気をつけて帰って欲しい」

「はい、有難うございます」

「母さんが出たら、お風呂先に入って休んで?なんなら一緒に入る?ハハハ」

え?……もう、何を…。スルーよ、スルー。こんな冗談を言うなんて…意外過ぎる。

「…真さんは?」

「ん?俺?俺は…知ってるだろ?台詞覚えが本当に悪いからね、まだまだ台本読まなきゃ。…人物もね…、本気で俺を消さなきゃ…出来そうもないからね…」

あ、…。頭に手を置かれた…。ぽん、ぽんとされた。そうだった、家に居るからって何もしない訳じゃ無いのよね。今、撮影中だった。

「適当に切り上げて風呂に入るから、遠慮無く先に休んで」

「はい、有難うございます」

地下の部屋で仕事するのかな。静かそうだものね。

「待って…」

部屋に行こうと立ち上がり掛けていた。引き止められて抱きしめられた。…あ。

「…おやすみ、詩織」

「ぁ、…おやすみ、なさい…」

…真さん、…。ドキドキさせないでください。
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