不審メールが繋げた想い

【件名:身勝手なお願いですが見てくれ…】

…あ、…また来てる……んー…。

仕事を終えて家に帰って居ると不明な着信があったことに気がついた。この人も会社勤めの人なのだろうか。ふとそんな事も過ぎった。メールをするのに時間帯なんてそんなに気は遣わないか…。そんなモノよね。
そもそも勝手に送り付けて来ているくらいなんだから。気を遣う遣わない以前の事だ。間違いなら間違いだって、そろそろ気づいて欲しいんだけどな…。返事がないから困ってるのかな……。ん゙ー。

このアドレス、着信許否の登録をすればいいんだけど…、何だか気になるっていうか…。中を見ないにしても変な興味?好奇心?いつまで来るんだろうって…。こうして着信があることに気がつくと、文字通り当たり前だけど、段々切迫して来てる感じで。関わらなくても知っておきたいみたいな変な感情、好奇心が……そう思うのは上手く感情をコントロールされているのかな…。今の私はちょっと下世話寄りだけど。
見て欲しいっていうのは伝わってくる。それはよ〜く解るんだけど。今のところ何もしてないから何も起きてない。

…例えば、間違っていませんか?って言ってあげたくて返したら、結果それでね…。更にしつこくなっても尚更困るし。でもまともな人のメールだったら?それで解決するのかもしれない。
件名って、一体どれだけの文字数を入れられるのだろう。こんな事、詳しくないから…。会社によって違ったりするのかも知れないけど。
少しずつ長くなってるみたい。…気のせい?
何だか、本文を開けなくても伝わるようにしようとしてるようにも思える。…はぁ。次もし来たら、具体的な事が件名にあるのかも。
こんな風に考えてしまうのも、その内、見るかもって思わせる、手、なのかな…。じゃあ、私ははまり始めてるってことか…。一体、この人は何を言って来てるんだろうか…。


「先輩、今週でしたっけ、試写会」

「試写会?…あ、そうよ、そう、金曜日」

忘れていた訳ではない。

「いいな〜。ひょっとしたら~、サプライズ的に、先輩の好きな俳優さん、来てるかも知れないですよ〜?トークショーとか、あったりして。特にファンて訳じゃないけど私も行きたかったな…こっちじゃ普段絶対見かけることってないですからね、芸能人に」

「ん?そうね?ごめんね~」

別に本人が来るってことじゃないのに。トークショー?試写会って、そういうのも必ずあるものなの?
ユミちゃんには友人と行くと言ってある。…実は一人。

「ねえ?トークショーって、そんな事あるの?予定にないからないでしょ?」

そんなサプライズがあったら大変。フフ、目の前に居たって、きっと嘘だって、信じられないだろうな…。

「解りませんよ?サプライズとか言って、仕掛ける事、あるじゃないですか。最近、多いですよ?知られないように伏せてるだけかも知れませんよ?だってサプライズですから。あ、帰んなきゃ。じゃあ、お先で~す」

着替えも早いこと…。

「あ、はいはい、お疲れ様でした」

ロッカールームからユミちゃんが出て行った。用でもあるのかな、フ、慌ただしい子ね。興味があって聞いてきたのか、それとも話のネタで気を遣ってくれたのか…。
そう。今週末、私は人生初の試写会に行く。今まで応募した事なんかなかったのに、今回に限り、応募してみた。そして…当たってしまったんだ。正直、駄目元だと思っていたから何だか今更、縁を貰った気がした。
長年ずーっと好きな俳優さんの映画。勿論、試写会とは別に、改めても観に行くつもりだ。…試写会だけでは内容が入って来ないだろうから。今までの作品だってほとんど観てる。
仮に、その俳優さんをYさんとして、私はもう随分と長くファンを続けている。…二十代の頃からだから。うん十年…。かと言って、アイドルを追っかけるような、そんな熱狂的なファンぶりでもない。…好きは好き。だけど、密かに?静かに、ずっと好きって感じだ。

ネットで会員登録してからは、誕生日、クリスマス、それから年頭に送られて来るメールを受け取るくらいで、こちらから目立った事はした事がない。ファンメールなんて、送った事は一度もない。勿論、バースデーメールもだ。心の中で頑張ってください、おめでとうございますって思うだけで、そこまでしようとは思わないからだ。
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