不審メールが繋げた想い

…はぁ、来ちゃった。
聳え立つ、とは程遠い、低めのビルを軽く見上げた。映画館はこのビルの中にある。
とうとう来ちゃった…。少し緊張していた。ううん、緊張とは違うかなこの感情は。…興奮。それだと思う。やっぱりどこか興奮していた。……普通に観ればいいのよ。ユミちゃんが変なこと言うから、もしかしたら、なんて。はぁ…こんな余計なテンションがプラスされることに……。

…あ、なんか、凄い?
中に入ると、人の浮足だった熱気のようなモノで充満しているようだった。
当たり前だが圧倒的に女性が多かった。それに…みんな綺麗にして来ていた。女性特有の香りが複雑に混ざり合っていた。ちょっとしたイベント感?
…はぁ。こんな中で観賞しても…。内容を深く理解したければ、やはり改めて観ないと駄目だろう。考え過ぎなのかも知れないが、心から観賞出来るような、そんなフラットな精神状態ではない。それは今日に限ったことではない。

私は、観たいと思った映画を観ることが出来ない。ううん、まず観ようとしない。おいおい、何を言っている、観たい物を好きに観ればいいじゃないかと言われるだろうが。
何て言うか、折角観るのだから、心がモノを観られる状態で観たいのだ。観るなら、観る前から自分の感情に左右されたくないのだ。…とても理屈っぽい事を言っているが、難しい話では無い。単純な事だ。機嫌が悪い時に映画を観ても、感動も何もそっちのけになってしまい、台なしになってしまうと言うような事だ。
だから、余計、主演が誰でも、良いと言われる映画を観るなら、観る前から変な興奮や落ちこんだ状態の気持ちで観たくないと言う事なんだけど。それほど神経質にならなくても、逆に、それを超えて引き込まれるくらい素晴らしい作品なら、精神状態なんて全然関係ないんじゃないか、とも思える。要は…相当心が病んで荒んでなければ大丈夫って事だ。こんな事を理屈っぽく思うのは私がいつもどこかスッキリしてないからだ。拘り過ぎといえばそうなのかもしれないけど。

いつもより少しだけ化粧に時間が掛かり、ちょっとだけ、数少ないお気に入りの中からワンピースを選ぶのにも手間取った。…観る事に全く関係は無いのだけれど。私自身、誰にも注目される事はないと解っていても、どこかにある少しの女心みたいなモノなのかも知れなかった。結局、人の事は言えないのだ。…私も熱はあるらしい。好きな人の映画だ。 スクリーンの中のYさんは、生身の人間ではないと解っていても、いつもより大きく映し出される分、余計向こうから見られているんじゃないかって、ありもしない勘違いをして…ドキドキが増すんじゃないかって。…思い違いも甚だしいんだけど。…フフ。

大袈裟な話だけど、今回が私にとって最初で最後の試写会になると思う。当たる事を前提だとしても、勿論、もう二度と応募はしないという事だ。
それには私なりに決めた事が関係していた。
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