不審メールが繋げた想い
「こんなに広いんですから余裕ですよ?あ、嫌でなかったらですが」
確認もせずいきなりだったから…嫌だったかな。“彼女”でもない、“女”の私にこんな事されて。ちょっと強引だったかな。無言になっちゃった。…大丈夫かな…。
「……はぁぁ…まさか…こんな事になるとは…。こんな風になればいいなんて、邪な気持ちで用意した訳ではありませんよ?」
「え?はい、そんな事は思ってません、解ってますよ?」
各務さんは女性には邪な気持ちにはならないんですよね?嫌って敬遠された訳じゃなかったのなら良かったです。
隣り合うようにしていたが、その内各務さんが少しずれて後ろに立ち、重なるようにして包まれた。ストールを持ち緩く回された腕が、抱かれているようで温かかった。時間の流れが凄く緩やかな気がした。
「……あ…そろそろ。お店の中に入ってみましょうか」
「あ、はい」
あのレストランの窓からだとまさにパノラマですね、と各務さんが言った。見上げるとレストランの上の方はグルッと硝子張りになっていた。
お店は沢山あった。普通のお店もある。ショッピングだけに来ても楽しめるって訳だ。B級グルメの王道。各務さんの言っていた富士宮焼きそばを食べた。一度食べたらやみつきになるとは聞いた事があるけど。…出不精でも知識だけはある。
麺はコシがあってもちもちと弾力があった。ラードを絞った肉かす、鰯の削り節、濃いめのウスターソース味。…なるほどね、しっかりとした味、また食べたくなるのも解る気がした。きっと『飲み物』も進む味だ。
コンビニや24時間営業のお店もあるんだ。そうよね、…サービスエリアって高速にあるんだから。車はいつと言わず走るんだもんね。
タコ焼きとサツマイモのスイーツ、あんパンを買ってテイクアウトした。…私の私用、お土産。車の中、匂い大丈夫かな。
「詩織さん、ジェラートもありますよ?美味しそうだけど…食べるには寒いかな…」
「んー、そうですね、店内は暖かいけど、小さくても一つは食べ切れないかも…」
美味しそうだけど諦めようかな。暖かい部屋でこたつに入りながらなら軽く食べられそうだけど。
「はい」
「え?」
「食べたそうだったから」
「あ、は、はは…」
「食べられるだけ食べましょう。無理な分は私が引き受けますから」
え?
「ご当地の物です。折角、色々、目移りするくらいお店があるのに、お腹がついていかないなんて悔しいでしょ?ちょっとでもいい、さあ、遠慮なく食べてください」
…。な、は、は。
「…有難うございます」
これは…嬉し恥ずかしだ。受け取って一口、口に運んだ。
「冷たい。でも…美味しい、です」
流石に冷たい、でも美味しい。ミルクの味が凄くする。後味はさっぱりとしてて美味しい。口の中は、即、冷えてしまった。二口目、三口目とゆっくり味わった。
「美味しいですか?」
「…あ、はい!凄く。各務さんも、…はい」
…思わず掬ってスプーンを口の前に。
…。
あっ!また無言にさせてしまった。これは、あ…しまった。無理かも知れない事だ。私ったら、つい軽はずみな事を。同じスプーンでなんて…、抵抗があるのに…。引くに引けなくもなっていた。
…パク。…あっ。流石に音まではしなかったが、少し遠慮気味に各務さんが食べた。
「…ん、…美味いですね」
「…あ、でしょ?はい、では後は約束通り、各務さんが。お願いします」
カップごとわざと頭を下げて渡した。もしかしてジェラートはあまり好きじゃなかったのかも知れない。私の為に無理して言ってくれたのかも知れなかった。
「承りました。甘いのは苦手なんですが、自然の甘さみたいで…さっぱりしてるかな。大丈夫、まさにミルクを飲んでる気分です」
受け取って食べてくれた。元々そんなに大きなカップという訳でもなかった。各務さんは甘い物は駄目なのね。
「さて、どうでしょう…ぼちぼち帰りましょうか。いいですか?」
「はい、充分色々と堪能しました」
お腹に手を当てて、ポンポンと叩いて見せた。
「ハハ。では帰りましょう」
また暫く高速を走り、下に下りて走った。
駅まで送って貰い、購入したチケットを渡され見送られた。
「有り難うございます。本当に…何から何まで…」
「いいえ。明日、何もないなら、このままずっと高速を走ってドライブしながら送ってもいいのですが、流石に帰りが一人というのは長い…」
「そうですよ?駄目ですよ。有難うございました。本当に色々と気を遣って頂いて。気をつけて帰ってくださいね」
「はい。詩織さんも。家に着いたらメールを頂けますか?あ、私じゃなくて、真にして頂ければいいですから」
ううん。首を振った。
「各務さんにも送ります。ちゃんと無事だって報告をしなくちゃ。
あ、新幹線、そろそろ入って来ますね。有難うございました。…では…」
改札を抜ける。
また…って、あるのかな。もう私はお役御免なのかも知れない…。きっとそうだ。
「はい、お気をつけて。あ、詩織さ〜ん、家まで送れなくて〜すみませ〜ん」
声が追い掛けて来た。
少し戸惑ったが振り向いて軽く手を振った。
各務さんはちょっとだけ手をあげた。