不審メールが繋げた想い
「眠っていてどうしても応答がなければ、ハンカチにでも包んでドアポストに入れて置こうかと思っていました」
「あの…」
「私のアドレスはご存知だったでしょうが、今、かけた番号、私の携帯番号です。早くお知らせしておけば良かったですね。番号表示の出来る電話ですよね?」
落ちたままの電話を指して言われた。
「あ゙…。は、い。あの」
「登録しておいて貰えたらいいのですが。では、私は帰ります」
身体を少し離してそう言われた。右手の掌に携帯を乗せられた。
「え?あ、ちょっと、待ってください」
…そう。今の今まで私は、玄関に引き込んだ勢いのまま、各務さんに腕を回されていた。つまり、緩く囲うように抱かれていたのだ。
「これから?」
「はい」
それがどうしたと言わんばかりの顔つきだ。この人の日頃の仕事の過酷さは解らない。だけど…。
「車ですよね?当然、運転は自分でされて」
「はい」
…また。当たり前だ、それがどうしたと言う顔だ。もうこれ以上、解り切った事を言わないでくれって顔だ。…だけど。
「仮眠されてはどうですか?」
「…仮眠?ですか?」
「はい、うちで」
…あ、固まった。…困らせたんだ。
「あの、一時間くらい仮眠されてから帰られた方が。時間からして、ずっと運転し通しですよね?もし、うちに来てしまった事で、帰り、何かあっては、私…お詫びのしようがありません」
一体、何時間、車に乗り続けるのか。暗いから景色だってそう変化はないはず。そんな中、高速を運転し続けるのは単調というか…。だから、尚更…余計危ない気がした。
「…大丈夫ですよ。心配は要りません。夜、起きている事なんてざらなんですから」
落ち着いた声色だ。
「でも、…」
帰り、一人でなんて長い、って言ってたじゃないですか。疲れている時の一瞬が恐い。
「起きてるだけと、車の運転を続けるのは違い過ぎます、と、…思います」
…。
また無言にさせてしまったかな。安全の為です…承諾してくれるまで粘りますよ?
「はぁ…、解りました…。では、一時間だけ休ませてください」
「あぁ…良かった。では、私のベッドを使ってください」
どうぞどうぞ。
「…いや…ベッドは…、あのソファーで充分です、あそこで休ませてくださればそれでいい」
ソファー?
「駄目です。あんな小さいソファー。身体を休めるつもりが、窮屈でどこか寝違えたら駄目ですから」
間違った事は言ってない。
…。
また無言に…。でも譲りませんよ?
「はぁ…、解りました…。しかし…、私がベッドを使ってしまったら、詩織さんはどうされるのです?」
私?
「私はまだ起きています。各務さんが帰られてから寝れば、私的には睡眠時間は充分ですから」
…。
小さく息が洩れた。
「…では、解りました、遠慮無く…お借りします」
「はい!」
…良かった。明らかに渋々だと思ったけど、ベッドルームに案内して寝て貰う事にした。ちょっと待って貰ってシーツを替えようとしたら、そのままで構いませんよと言われた。