不審メールが繋げた想い

帰りにいいかと思い、余計な事とは思ったが小さい保温ボトルに珈琲を入れておいた。
ソファーに膝を抱えて座った。ストールを巻き付けた。貰ってからずっと今日は大活躍している。

あ、…。帰って来たままだった。
お風呂に入って無かった事に気がついた。シャワーだけなら…。各務さんの存在が気にはなったけれど、手早くシャワーを済ませた。

フゥ……。確かに携帯は大事だけど…。先にあったと教えてもらえたら、それで良かったのに。ちょっと弄ってもらえば、うちの家電の番号、入れてあるんだけど…。連絡が取れたら、それで送って貰って良かったのだけれど…。仕事で使う事が多い人からしたら、無いとたちまち困るだろうと思ってくれたのかも知れない…。こんな遠くまでわざわざ来てくれるなんて…申し訳ないよ。でも…あって…良かった……本当に…良かった。


……ん…ん、…え?…えっ?!
目が覚めた私はベッドの中に居た。…各務さん…各務さんは?…居ない。
え…いつの間に?
飛び下りて部屋を探した。居ない。…トイレは?

「各務さん?」

返事はない。居ない…。

あ。テーブルの上にメモがあった。

『仮眠、ちゃんと取りました。ベッドを占領してしまい、すみませんでした。勝手にですがシャワーを使わせて頂きました。それからこれも勝手に判断して、保温ボトルは持って行きます。有り難く頂かせて貰う事にします。いいですよね?
それから、これも許可なく勝手にですが、詩織さんをベッドに運ばせて頂きました。各務』

…几帳面な丁寧な文字だ。許可なくって…誰に……私に?…。はぁ、私、寝てしまったのね、シャワーなんかしたからさっぱりして…。それに加え遠出していたし、携帯が見つかった事で、安心して気が抜けてしまったんだ。はぁ…見送りもしないで…。運ばれたことにも気がつかず…なんてお間抜けな…。
携帯を手に取った。

【無事、着きましたでしょうか。昨日は本当に本当に、色々と有難うございました。お疲れのところを運ばせてしまってすみませんでした】

ブー。あ。

【おはようございます。大丈夫です、何事もなく着きました。もう起きてるんですか?】

早。あ、…私ったら、目が覚めて各務さんが居なかったから、メモを見て、ついこんな早い時間にメールなんかして…。

【ごめんなさい。目が覚めたら居なかったから。時間も考えずにこんなに早い時間に。ごめんなさい】

【いいえ、大丈夫です。私が運んだというのは、数百グラム単位の硬くて冷たい物の事を言ってますか?
それとも…、〇〇キログラムの、柔らかくて温かいモノの事でしょうか?】

…フッ。


あ…、クスッ。

【…どちらもです。軽いけど長距離と、短距離でも重いモノ。どちらも運ばせてしまってすみませんでした】

フッ。

【いいえ。どちらも大事なモノですからね】

…ゔ〜ん、これは。

【改めてお礼をさせてください】

【それは結構です。お気遣いは無用です。仕事だと思ってくださればいい】

ぁ…は、なるほど…仕事…。運んだ事は各務さんにとって仕事。…マネージャーさん、ですもんね。……仕事。
改めて…線を引かれた気がした。
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