不審メールが繋げた想い

「今はマネージャーです。そういう事です。そろそろ寝ても構いませんか?」

「え、あ、はい、どうぞ」

「詩織さんも一緒にですよ?」

「え?…え?」

どういうこと。

「私が詩織さんと一緒に寝ます。一人では寝付け無いでしょ?」

寝付けない…それは。そうだとしても。

「あ、あの、それはいくら何でも…何故」

駄目駄目。何を突然そんな事…駄目に決まってる。

「心配は要らないから」

あ、…そうだ。そうか、各務さんは大丈夫な人だから、だから言ってるんだ。でも…だからって、ね。それはそれ、…男女なんだから…ちょっと難しいのでは。難しいでしょ。

「いや…でも…」

「さあ…」

珈琲を飲み切った各務さんに手を取られた。…あっ。目尻に涙が残っていたのだろうか、指先が触れてすっとスライドした。不覚にもドキンとしてしまった。

「各務さん、あ、あの…」

「さあ、行きますよ」

「あっ」

ベッドルームに連れて行かれ、各務さんは何の躊躇もなく、スーツを脱ぎ始めた。ワイシャツを脱ぎ、綺麗に引き締まった身体でベッドに入った。…何だか…何とも…見てしまった。当たり前なんだけど、色気のある男性の身体…だ…。前の時もこんな…裸だったのかな…。ゴク。

「どうしました?はい、どうぞ?」

「…はい」

いや、はい、って…。返事したからって…。

「はい、どうぞ」

「…失礼します」
…て……戸惑いはありつつ、ゆっくり横に並んだ。捲っていた布団を掛けられた。あ。ゔ。私…何してるのよ…。大丈夫な人っていっても、立派な…男性、男性よ?。…あ。向き合うように身体を返され、何の躊躇もなく胸の中に収められてしまった。あの、これ。

「各、務さん?」

「…大丈夫ですから」

「あ、あの、えっと、寒く、ない、ですか?」

あ。背中をゆっくり軽く、トン、トンとされた。まるで子供…。あやされてる。どう考えても…大丈夫ではない気がする。勝手にドキドキしてしまう。 いや…、絶対この強い“心動”伝わってるはず。こんなに密着してるんだから。

「大丈夫。大丈夫ですよ…とても温かい。寝てください」

何に対しての大丈夫…。こんな複雑な思いのクリスマス…。もっと若い時なら危険で…有り得ない状況だと思った。意識もちゃんとあって、自分からすすんで男の人とベッドに寝るなんて、それは…大変な事をしている。
大丈夫だと言われて、ほぼ抵抗なく男の人と横になるなんて。普通なら覚悟のいる事だ。
いや、しない。それが…男女でというより、人間として、の方に意識はあっていいのよね?だから、各務さんだから。この人は大丈夫な人。そして…何より信頼できて安心する人。だから一緒に横になって居られる。そういうことよね。はぁ。また、朝、目が覚めたら、各務さんは居ないのだろう。


予想は外れた。各務さんは居た。
昨夜、寝た時と同じように私を抱いていた。 まだ早いからかな。私も大概、目が覚めるのは早い方だ。睡眠時間は短くていい方だから。いつもより早目に寝てしまったら、起きるのも早くなってしまう。各務さん…、帰らなくて大丈夫なんだろうか。もしかして寝過ごしてしまったのだろうか。声を掛けようかどうしようか、顔を少し上げ見ていた。

「ん…、今日、休みですよね…」

起きていたんだ。穏やかな声が身体にも響いた。少し抱き直された。

「…おはようございます、詩織さん」

「あ゙、はい、私、日曜日ですから。あ、あの、各務さん、時間…お仕事…は?」

「私も休みなんですよ?」

腕が動き、グッとまた抱き直された。

「あっ。え?」

お休み?

「んん…、はい、休みです。久し振りに、こっちから申告して休みを貰いました。もう少し寝てもいいですか?」

各務さんの顎が頭に触れたと思う。胸にピッタリ顔が付いてしまった。少し横向きになるように顔を動かした。トクトクと小気味良い各務さんの心音が聞こえた。

「それは、は、い、まだ早いですから…」

「では…このまま詩織さんも…」

あ、もう、寝たのかな…まだよね。抱いていた片腕が後ろから私の頭を胸に押し付けていた。…トクントクンと鼓動が聞こえる。えー…何だか解らない…。この状況、ドキドキはするけど、だけど…変わらず安心するし、何だかほっとする。でも…こんなのっていいの?…いいの?……だけど、今はこのままでいいか…。
……何もかもに、目を瞑ってしまおう…。
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