不審メールが繋げた想い
「…詩織さん、シャワーお借りします」
「はい、あ、ちょっと…待っててくださいね」
「ん?は、い。あぁ、良く眠れた…」
眠れたんだ。本当に?自分がそれほど眠れてないから、各務さんだって、て思ったけど。…違うのかな。
一眠りして微睡んでいた。各務さんも起きていたようだ。何だろう…。何度も確認するようだけど、見れば各務さんが前に居るってこの現実。全くドキドキしない訳ではないけど、…大丈夫。…各務さんはほぼ裸ではあるんだけど。
ベッドから素早く出た。
「あ、詩織さん?どこへ」
「声を掛けるまで待っててください」
「…はい」
…寒。先に部屋を暖めておかなければ、寒過ぎる…。小走りで移動した。エアコンを点けた。室内を暖めるため浴室に行きシャワーを出した。暫くして温まったお湯が出始めるとたちまち湯気が立ち込めた。よし、これで大丈夫。
「各務さん?もういいと思います、どうぞ、いいですよ?」
「お気遣いして頂いたのですね、どうも有難う」
各務さんは来た時、ガーメントバッグを持っていた。どうやら着替えを持って来ていたようだ。
浴室に入るのを確認して、簡単な朝ご飯を作る事にした。
ベーコン、オムレツを焼き、お湯を注ぐだけの簡単なスープを作った。スライスしてあるフランスパンをトーストした。プチトマトと茹でたブロッコリーをプレートに添えた。本当に…恥ずかしいくらい超簡単。料理したとは言えないほど…。
珈琲の準備をしていた。
「ふぅ、…有難うございました」
どうやら出たようだ。
……あ、普段着の各務さん…だ。無造作な髪…初めて見る…。いけない。じっと見てるなんて…いけない。
「あ、あの、朝はいつも食べてますか?本当に簡単で…大した物はないのですが、こんなので良かったら食べますか?」
珈琲を入れた。
「これは…嬉しい…有難うございます、遠慮なく頂きますよ」
「ではあちらに」
ソファーのテーブルの方に運んだ。ダイニングセットといっても椅子は一つだから。運ぶのを手伝ってくれた。セルフサービスって感じだ。
「頂きます」
「…どうぞ」
味の心配はない。
「目は腫れてないようですね、眠れましたか?」
顔を両手で押さえた。寝起きの顔だ。恥ずかしい。今更だけど明るいところであまり見られたくはない、けど。
「え?…あ、はい。ずっと起きてた反動もあると思いますが、記憶がないからぐっすり眠れたのだと思います。いつも後味の悪い意味のない夢を見る事が多いんですけど、それも見てませんから」
ぐっすりなんて嘘だけど。
「クス、そうですか。もう少し普段から睡眠は取った方がいいのかも知れませんね」
…柔らかい眼差しだ。
「なるべくそうします。あの、各務さんは何時頃まで居て大丈夫なんですか?」
早く帰れと言ってる訳ではない。
「ん…明日の仕事が始まる迄に帰り着けば大丈夫ですよ」
あ、車。大丈夫かな。
「車は?車ですよね?」
早く確認しておくべきだった。
「どこに駐車したかって事?」
「すみません、はいそうです」
「大丈夫だろうと思って、駐車枠の空いているところに停めちゃいました」
「えっと、奥の二つのどっちかにですか?」
「はい、確かそうです。あの時間に空いていれば、使われてない枠じゃないかと思って。大丈夫でしたか?」
「はい、大丈夫です。そこなら停めていいところです、多分」
見て確認した訳じゃないから。
「今日、どこか出掛ける予定でしたか?」
「え?」
今日は…。元々から何もない。どこかに行こうかってことかしら。
「あー、それとも部屋で過ごす予定でしたか?」
「あ、…今日の予定は元々ありません…私、休みはいつも特には。各務さん、ゆっくり休まれたいなら部屋に居ましょうか」
この言い方であってるかな。
「ゴロゴロしてていいのかな」
「構いませんよ。私、毎年、クリスマスとかもゴロゴロしてますから。そんな事言ったら年中ゴロゴロになりますね。帰りに差し支えないようにゆっくりしてください」
往復の運転時間を考えたら、きっと滞在時間は短いくらいだ。