不審メールが繋げた想い
年が明け、約束の〇月〇日の数日前、新幹線のチケットが届いた。
メールは各務さんからだった。
【以前と同じように私が迎えに行きます。今回は私だけです。各務】
【解りました】
…はぁ。希望通り、現状維持。今のところ太ったりはしていない。この分だと当日まで多分大丈夫だろう。いつもなら大量にケーキを食べてしまうと大人にきびが出来たりしたのだけど、今回それも大丈夫だった。
約束通り、迎えに来ていた各務さんと駅を出て車に乗った。各務さんはいつも通り淡々としていた。今日も仕事ですから、という事なんだろう。知らされていたように駐車場の車の中に真さんは居なかった。
「あの、また、真さんの家にでしょうか…」
「いいえ」
…あ、違うんだ…、違うならどこに行くのだろう。
「あの…では、どこに。今日って一体…」
「着いたら解りますので…今は、すみません。では出します」
あの日もそうだったけど何だか歯切れが悪いな…。いつもの各務さんと少し違う。真さんとお母さんのプレゼント、一応持って来たけど渡せる雰囲気なのかな。
「……あ。はい、お願いします」
暫く走ると白く聳える建物が見えてきた。ここは…、教会だ…。綺麗…。あ。
「各務さん…あの…」
ウインカーを点滅させ、車は敷地内へと折れて行く。…あ、ここに来たの?
「裏の駐車場まで行きます」
…どういう事、…。ううん、頭ではほぼ解って来ていた。ここでする事と言ったら私には一つしか思い当たらない。この教会で結婚式を挙げるんだ。それしかない。…だから太るなって。こんな事…だったら言って欲しい。聞かされていて、来なかったら困るからって事かな。
車を停めた。
「…では、行きましょうか」
「あ…はい」
シートベルトを外すと各務さんは降りた。…はぁ。何を聞いたところで、今日の各務さんからは具体的には教えてくれないのだろう。もう、決まっている事なんだろうから。スライドドアが開けられた。降りようと腰をずらしていたら手を取ってくれた。いつも優しい。
「足元、気をつけてください」
あ、砂利。
「…有り難うございます」
「……こちらにお願いします」
各務さんの後について行くと、そこはまさしく控え室だった。
…はぁ。中に通されると女性が待っていた。
「本日はおめでとうございます。私がお世話をさせて頂きます。よろしくお願い致します」
丁寧に頭を下げ挨拶された。私は何も聞いていない。だけど一連の流れ、挨拶…そういう事なんだ。頭を下げて、こちらこそ、お世話になりますと挨拶を返した。
「直ぐにヘアメイクを始めさせて頂きます。お衣装は、こちらになります。新郎様が、こちらがお似合いになるとお選びになられたそうです。落ち着いたデザインで光沢のあるドレスです。流石ですね、新婦様、大変お似合いになると思いますよ」
アイボリーのクラシカルなウェディングドレス…。装飾はなく派手な作りではない。溜め息が出る程美しいドレス…とても素敵だ。本番ではとても着られそうもない、そんな高価なドレスだと思う。これを着なくてはいけないんだ。太る太らないじゃない。そもそも、基本のサイズは大丈夫なんだろうか。サイズの事ばかりではない、そもそも、何もかも…不安で、とても…普通の新婦のような、そんな晴れやかな気持ちになんて…。はぁ。到底なれない。
各務さんを振り返り見た。ゆっくり頷かれた。やらなくちゃいけないって事だ。
「私はまた後で…。本日は詩織さんを真の元へエスコートさせて頂きます。…父親代わり、といったところです。…大役ですね。私も少々衣装替えが必要ですので、では、失礼します。真がすぐ入れ替わりに来ると思います」
はぁ…。確定した。やはり今から結婚式を挙げるんだ。
「事前にお写真をお預かりしておりました。ヘアメイクの参考にさせて頂きました。このような感じで仕上げさせて頂きます。よろしいでしょうか」
タブレットを見せられた。私の顔…。上手く取り込んでヘアアレンジがされていた。あ、こんな事まで…。写真て、……。どうやって手に入れたのだろう。こんな正面からの写真なんて…。二人で、真さんと写真なんて撮ったこともないのに。
コンコンコン。各務さんが出て行くと、暫くしてドアがノックされた。きっと真さんだ。
「詩織…、入るよ?」
真さんの声だ。間違いない。理由があるからだろうけど。少しは事前に説明してくれてもいいと思うのに…どういう事で今日結婚式を…。結婚式よ?いくら何でも、言葉が…、説明が足りなさ過ぎる…。
「はい、…どうぞ」