不審メールが繋げた想い

『大物俳優、極秘挙式か?!』
ただ一社、週刊誌にそんな見出しが踊ったのは自分が挙式をした日から十日後の事だった。名前は載っていなかった。具体的な内容は何も。相手の事も。このタイミング、もしかしてと思った。これがYさんと私の事なら、リークするとすれば、式に関わった人の中に、という事になる。
私を担当してくれた女性かも知れない。写真を撮った人かも、神父さんかも知れない。全員がYさんとして認識していただろうし。だとしても、そこは抜かり無いはず。真さんにしろ、各務さんにしろ、念押しはしているはずだ。挙式には極めて限られた少人数しか関わっていない。だけど、それでも洩れる時は洩れる…。
某有名ホテルの従業員だって、アルバイトとは言え、宿泊客の事をつぶやいてしまうようになってしまったくらいだ。仕事上、守らなければいけない事の重大さを一体どう思っているのか…。
企業の規約は存在して無いようなものになってしまったのか。いい加減なものだと思った。アルバイトだからといって仕事に無責任でいていい訳ではない。

記事を流し読みしていてハッとしたのは、都内某所、12月25日、クリスマスウェディング、とあった事。この記事が私とYさんの事なら、まず日付が違う。だから別の大物俳優だという事になるのだけど。独身の俳優さんは沢山存在する。何もYさんに限った話では無い。大物だと書いていても実際そうでもない事もある。まして、この雑誌の記事に信憑性があるとは思え無い。写真がある訳でも無かった。記事の殆どは誰とも断定し辛い、俳優の経歴や恋愛歴。どれも決定的な言葉は何も無かった。

…。

雑誌の売上の為の話題提供かも知れない。誰もが興味を持つ話題だ。それこそ見出しに踊らされてしまう。…現に、ここにも若干、一名居る。お昼を食べ、横から雑誌を見せて来たのはユミちゃんだった。

「ねえ、先輩。この大物俳優って誰でしょうね。先輩の好きなYさんだったりして。だとしたらショックですよね?先輩、どう思います?」

「ショックは無いわよ」

「またまたぁ。本当なら先輩、悲しい事が続くじゃないですか。………あ゛。や。あのですね、あーこれ、いいのがあったんですよ?ヘーゼルナッツが入ってて、凄~く香りが良くてコクがあって美味し~いチョコです。食べて食べて。どうぞ?」

…慌てて取り繕わ無くても。だから…婚約破棄とかないし、元々落ち込んでないからね?

「…有難う。頂きます。これが本当でも嘘でも、私はね、ファンだけど、初めから存在しない人くらいに思ってるから、ショックも何も感じないの。芸能人だもの、平気よ」

存在も何も…。Yさんなら、式、挙げたわよ私と。虚偽挙式だけどね。バージンロードも歩いたわよ。教会の外に出たらフラワーシャワーなんかも浴びたわよ?…誓いのキスもしたわよ。したにはしたけど、全部、幻だけどね…。

「誰だとしても、クリスマスに挙式するなんて…夢見過ぎです。きっと相手の女性にせがまれたんですよ。若いですね相手は。こんな…結婚に幻想を求めるなんて、若い子に決まってますよ」

スチャスチャと何度も眼鏡を上げた。は、あ、相変わらず冷めてるなぁ…ユミちゃんだって若いでしょ?

「きっと、女優さんとか芸能関係の人がこれ見よがしにですよ。一般女性なら、俳優相手にわざわざ目立つ日を選んでおいて、それを隠そうなんて矛盾した無理な事、しませんからね。好きな人を困らせてしまいます」

…なるほど。極秘を装いながらも実はバレて欲しかったのかも知れない。何となく、そこに隠された女心がありそう。いい読みなのかも。事実ならどちらの事務所も今頃水面下で大変だろう。私は…日取りなんて気にしてもみなかった。真さんのスケジュールに合わせた私の休日があの日だったんだと思ったくらいだ。

ちょっと気になったから式の日を帰って調べてみた。
〇月〇日、六曜の検索をしてみた。驚いた。
偶然かも知れないが、私達が式を挙げたその日は大安だった。
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