赤い糸~切れた糸の続き~
田崎先輩を怒らせたら大概ヤバイと思うから、私は一応頷いておく。

「あ?だから何で入ってくるですか?」と健斗君は言う。

普段は猫被ってるのかしら?私の前では甘え上手な後輩なのに。

何でこんなに敵意剥き出し?

これは…ヤキモチ?!

それに気づいて田崎先輩は悪のり?

面白そう!乗っからずにはいられないよね!

「いいってさ!改めて店入り直そうか」そう田崎先輩は言うと私の腰に手を回してきた。

うわぁーこれはまずいって!流石に…

ほら、健斗君睨んでるし!

田崎先輩はお構い無しの挑発?一人めっちゃ楽しそう。

私は楽しくないです!どちらかと言うと…怖い…

私達はそのまま店に戻る形になってしまったが、健斗君はちゃんと入って来てくれた

私達は今度はテーブル席に座り直した。

座ったとたん、田崎先輩は健斗君を挑発する。

「さっきは友人とか言ったけど、俺ら、昔付き合ってたようなもんだよな?」と私の顔を見てくる。

確かに、私達は良く一緒に過ごしてた。

咲斗さんの連れと言うこともあって、咲斗さんが絶大な信頼を置いていたから。

入退院を繰り返す咲斗さんに代わり、彼氏をよくしてくれていた。

それでも私は咲斗さんが一番で、田崎先輩を意識したことはなかったのだけど。

「どーゆう意味ですか?」と健斗君は聞いてくる。

なんて答えていいのかわからない私は悩んだふりをする。

「俺は咲斗の連れだった。咲斗は俺に羅菜を頼むと言ったから、咲斗がいない間は俺が彼氏を演じてた」と田崎先輩は言った。

まさか、そんなにストレートに言ってくれるとは…

私はてっきり悪のりしてごまかしてくるのかと思ってたのに…

なんて答えていいのかわからない。

けど、健斗くんは言葉を探しているように見えた。

唇を薄く噛みながら。

知ってる、本とは咲斗さんのこと大好きだったこと。

本とはもっと咲斗さんのこと聞きたいんだってこと。

それでも言葉を探しながら黙っているのは…聞くのが怖いから?

それとも聞きたくないから?

私にはわからない。

「健斗くん」私は声をかけてみた。

ビクッと一瞬体が跳ねた。

「…んで…」絞り出すような声で健斗くんは小さく声をだした。

「あ?何?聞こえねぇーよ」って田崎先輩。

怖い…ヤンキーみたいになってる。

「好きだったんですか?」今度は声が震えている。

「あ?まあ、好きだったよ!けど、人の女に手は出さないってまあ、カッコつけてるけど、何で自分じゃないんだろうとは思ったよ。だってそうじゃねぇ?一番近くにいるはずなのに、いっつもコイツは遠くを見てて。正直さ、寂しかったよ」と田崎先輩少し照れながらそう言った。

健斗くんは更に唇を薄く噛み締めた。

何も言えないというか、言いたくないそんな感じに見えた。

「まさか、君に奪われるとは思わなかったけど…」と笑顔を向けている、田崎先輩。

「もういい!羅菜さんなんて知らない!」

健斗くんはそう言い残して席を勢いよく立ち上がると、店を出ていってしまった。

私は呆然と椅子に座ったまま、動けずにいた。

「ちょっとやり過ぎた?」と舌を出して笑う田崎先輩は昔と変わらない。

やりすぎだろ!これで別れたらどーしてくれんのよ?!

そう言いたいのをぐっと堪えたのだが、

顔に出ていたのか、田崎先輩はクスクス笑いながら、私の頭を優しく撫でた。


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