赤い糸~切れた糸の続き~
「ごめん…別れたらちゃんと責任もって俺が嫁に貰うよ」って田崎先輩ずるいのよね。

「そー言う問題ちゃいます!」と私は怒ってしまったけど。


それから休みは健斗くんに会わなくなった。

毎日忙しくて会えないってのもあるけど。

仕事は忙しく、健斗くんに連絡する暇もなくなった。健斗くんに会えない日が続き、気づけば9月くらいになっていた。

部署が替わり、約5ヶ月、やっと少し慣れてきた所で、相変わらずの膨大な仕事に終われ、毎日イライラして、今までしてこなかったミスまでしてしまうようになった。

食堂でため息をつきながら喉も通らない食事を無理やり流し込む。

会えない寂しさ、集中出来ていない上にミスをして、迷惑をかけていることに涙が出た。

優しい福本さんでさえ、周りに出すような鬼になっていた。

悔しかった、苦しかった。

会いたいよ…健斗くん。

声聞きたいよ、何で連絡も出来ないんだろう…情けないわ。

けど…あれから4ヶ月…このままで正直いいのかしら?

何でだろう…今までなら乗り越えられたのに…

気づけば健斗くんがそばにいてくれることが当たり前になってたのかもしれない。

いつもニコニコしながら話を聞いてくれて。

私はテーブルを思いきりグーで殴った。

すごい音が食堂中に響き渡る。

拳から血も流れている。

「おい、バカ!何してんだよ!」と私の所に来てくれた声の主は田崎先輩だった。

私の拳から滴る血を眺め、応急措置を施した後、私は田崎先輩に抱き締められた。

田崎先輩は何も言わなかった。

そこに現れたのは福本さん。

「…何事だ?生田」何も知らずに声をかけられた。

田崎先輩は睨み付けている。

「なんだ、その目は?」と福本さん。

「彼女、早退させてやれませんか?こんな状態でとてもじゃないが仕事出来ないと思います」と田崎先輩は言ってくれた。

「すぐには無理だ。少し時間をくれ」そう言い残して福本はご飯も食べずに食堂を出ようとする。

私はとっさに田崎先輩を振り払い、福本さんの前に立った。

睨み付けるような低いドスの効いた声で「どけ」とひと言、福本さんは言った。

周りの空気は一気に凍りつく。

田崎先輩でさえ身震いしているのがよくわかる。

「お食事まだでしょう?室長、せっかくここまでこられたのですから、食べていかれてはどうです?」私は満面の笑顔で食い下がる。

「…フッ、随分と粋のいいことだな?まあ、そうだな。後の話は飯を食ってからにしよう」と福本さんは言うと、近くの席に座り、お弁当を広げた。
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