夢幻の騎士と片翼の王女

ふと、扉を叩く音が聞こえたような気がした。
今まではこんな夜更けに誰かが来ることなんてなかった。
何かあったんだろうかって、ちょっとだけ気になって、私は外の様子に耳を傾けた。



「こんな時間にどなたですか？」

メアリーさんの声が聞こえた。



「リュシアンだ。」

「リュシアン様…！？」

メアリーさんは驚いたような声を上げた。
扉には、鉄の格子のはめられた小さな窓がついている。
つまり、本物のリュシアン様だったってことだろうけど、どうして、リュシアン様がここに…？



（まさか…！？）



私がここに幽閉されたのは、私が正式にアドルフ様の側室になる半年後まで、リュシアン様が私に手出しできないようにってことだった。
ってことは、リュシアン様は私のことをまだ狙ってて…！？
そんなことを考えたら、なんだか体がぞくっと震えた。



「リュシアン様、何の御用ですか？」

「亜里沙は元気にしてるのか？
その…アドルフが亜里沙のことを気にしていてな。」

何だ、そういうことか…
アドルフ様が私のことを気遣って下さっているのはありがたかったけど…
じゃあ、どうしてご本人は来られないのかな？
あ、そっか…ご結婚されたばかりだからか…



「あの、それが……」

「どうした？亜里沙に何かあったのか？」



どうしよう？
こんな顔で出て行ったら、心配されるよね…
でも……そうだ！もしかして、私がこれほど打ちのめされてることを知ったら、アドルフ様が何とかして下さるかもしれない。
私は、立ち上がり扉に手をかけた。