夢幻の騎士と片翼の王女
「あ……」


待っていた歌声が耳に届いた。
今日は、明るく軽快な歌だ。
聴いていると、自然に身体がリズムを刻む。



恋愛ものの歌詞だった。
ある男性が、ある女性に恋をして…だけど、なかなか想いを伝えられず、恋に悩む様子をコミカルに歌ったものだった。
楽しくて、ついつい顔が綻んでしまう。



歌を聴きながら、私はふと思った。
私はこの優しい歌声に恋をしてるのかもしれない…と。



私だって、過去には人並みに恋をした。
初恋は、小3の頃…同じクラスの運動神経抜群の男子だった。
その後も、中学、高校と好きになった人は何人かいたし、お付き合いをしたこともあるにはあった。
プラトニックなものだったけど…



でも、これから先、そんなことは許されない。
私は、死ぬまでアドルフ様以外の人を好きになることは許されないんだろうな、きっと…



アドルフ様のことを好きになれたら、まだ幸せだ。
もしも、好きになれなくても、好きなふりをしなくちゃいけないんだ。



そんなことを考えたら、また気持ちが沈んだ。
せっかく、歌を聴いて少し楽しくなってたのに…



そうだ…私は囚人のようなものなんだ。
大切な壺を割った罪を償うために、私は牢に入れられたって考えるべきなんだ。
牢に入れられただけじゃなく、囚人は仕事もしなくちゃいけない。
その仕事が側室…



乾いた笑いがこぼれた。
物事は割り切って考えた方が傷付かない。
現実を受け入れよう。



(私は囚人…アドルフ様以外の誰かを好きになることなんて、許されるはずがない……でも…)



歌声の人へ、ちょっとした好意みたいなものを感じるくらいは良いのかもしれない。
誰にも言わず、私の心の奥にしまい込んでるだけなら、きっと大丈夫…
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