夢幻の騎士と片翼の王女
困惑(side リュシアン)
(亜里沙…!)



今日で、あれから半年が過ぎた。
亜里沙があの塔から戻って来るのは、きっと、今日だ。
俺には関係ないこと…そう思うのに、つい気になって、俺は城の外回廊に向かってしまった。



俺は、偶然、このあたりを散歩していただけ。
うん、そうだ…今日はこんなに天気が良いから、散歩をしても不自然ではない。



誰かになにかを言われたわけでもないのに、俺は心の中でそんな言い訳を考えて…
早朝から何度も何度も外回廊を行ったり来たり…



(何をやってるんだ、俺は…)



自分の馬鹿さ加減に、嫌気がさした。
もう帰ろう…こんなところにいたって何の意味もない。
そう思った時、俺はアドルフの姿をみつけた。
さっと物陰に身を潜める。
悪いことをしているわけでもないのに、なんで俺は隠れなきゃいけないんだ。
自分の行為に腹が立った。



その時…塔の階段に通じる扉が不意に開かれた。



(亜里沙…!)



久しぶりに見る亜里沙の姿に何かを感じる間もなく…
俺は、なんとも言えない不快な気分に陥った。



それは、アドルフが亜里沙を抱き締めたから…



亜里沙は、アドルフの側室になる女だ。
奴が抱き締めたとて何の不思議もない。
そうだ…アドルフは口づけをしたわけでもなんでもない、ただ抱き締めただけなのだ。
なのに、それを見た時、俺は心の中がひび割れるような強い衝撃を受けてしまった。



俺はさっと踵を返すと、その場からそそくさと姿を消した。
まるで、こそどろにでもなったような惨めな気分だった。



(来なけりゃ良かった…)



苛々とした気分が込み上げ、俺は、自分を殴りつけたいような気持ちだった。


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