夢幻の騎士と片翼の王女
別離(side 亜里沙)
「亜里沙!」



ゆっくりと目を開く…
私の目に映ったのは、心配そうなリュシアン様の顔だった。



「リュシアン様…ここは…?」

そう訊ねてすぐに、そこがお城の私の部屋だと気付いた。



「ここはおまえの部屋だ。」



どうしたんだろう?
私…屋敷の方にいたはずなのに…
そう思った時、血に染まったアドルフ様の姿が頭を過り、心臓が早鐘を打ち出した。



「あ、アドルフ様…!!」



思わず大きな声を出してしまった。
だけど、叫んだ後で気が付いた。
そう…私は、今、眠っていた。



(そうか、あれは夢だったんだ!
私…怖い夢を見てたんだわ!)



そう思ったら、ほっとした。
ほっとして、なんだかおかしくなって、笑いが込み上げて来るのを懸命に押さえた。
以前もこんなことがあった。
怖い夢を見て、メアリーさん達を起こしてしまって…



だけど……



リュシアン様はとても沈んだ表情で、悲しそうに眼を伏せて首を振られた。
その動作を見た時、私はとても不安な気持ちを感じた。



「……リュシアン様…どういう意味ですか?」

私が訊ねると、リュシアン様はじっと私の目をみつめられた。



「覚えていないのか?」

「覚えてないって…何をです?」

また鼓動が速くなった。
なにかとても不吉な予感がして、リュシアン様の返事を訊くのがとても怖かった。



「アドルフは死んだ…」

「え…?今、なんと…?」

「アドルフは…この世にはもういない…」



(嘘……アドルフ様が刺されたのは、ただの夢…そう、とてもいやな夢…あれは夢なのよ!)



「嘘です!アドルフ様は生きてらっしゃいます!
今はきっと私の屋敷に…」

「良いか、亜里沙…すでに葬儀も済んだ…
アドルフだけではない…ジゼルも死んだ…」

「な、なんですって…?」



鼓動がさらに速くなる。
アドルフ様だけじゃなく、ジゼル様までが亡くなられた?
そんな馬鹿な…



リュシアン様は事の顛末をゆっくりと話して下さった。
アドルフ様は、私をかばったせいでジゼル様に刺し殺され、ジゼル様は次の日、近くの湖に浮かんでいるのが発見された…と。
おそらくは、罪の意識から自死されたのだろうということだった。
私は、アドルフ様の傍らに倒れたまま、三日間目を覚まさなかったのだと。
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