夢幻の騎士と片翼の王女




「え~…と。」



口付けの後の長い沈黙…



何か言わないと…って思うのに、何を言えば良いのかわからない。
だって、こんなこと、まったく予想してなかったから。
びっくりし過ぎて、今でもまだ落ち着かない。
気まずい空気を破ったのは、リュシアン様の方だった。



「返事は急がない。
俺はいつまでだって待つから。」

「で、でも、こんなこと…きっと、国王陛下がお許しにならないと思います。」

「そのことなら安心しろ。
陛下には了承済みだ。」

「えっ!?ほ、本当ですか?」

「あぁ……」



その笑顔は少しの曇りもないもので…リュシアン様の言葉は嘘ではないと思えた。
それにしても、よく国王陛下がお許しになったものだと思う。
元々は、リュシアン様に捧げられるはずだった私を、アドルフ様にお与えになった負い目みたいなものがあるからだろうか?



「急がないとは言ったが…早いなら早い方が嬉しい。」

私はリュシアン様の視線を避けた。



まさかプロポーズされるなんて…



それに…きっとこれは断れない選択…
だって、リュシアン様はこの国の王子様なのだから。
よほどの理由がない限り、断ることは出来ないんだと思う。



リュシアン様に抱き締められた時に感じたあの感覚は、きっと愛…
狂おしい程の幸福感だったのではないかと今は思っている。



だけど……
本当に良いのだろうか?
こんな私が幸せになって、良いのだろうか?
亡くなられたアドルフ様はどう思われるだろう?
私が、リュシアン様のお妃になることを、アドルフ様はお許しになるだろうか?
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