夢幻の騎士と片翼の王女
厄介者(side 亜里沙)
あれから、五年弱の月日が流れた。
私も来年は三十路になる。



長い間、警察には尋問を受けたけど、私の答えからは、犯人に繋がるようなことは何も聞き出せなかったようだ。
それもそのはず。元々いるはずのない犯人がみつかるはずもない。
マスコミにも私が戻ったことが知られ、家に押し掛けて来る取材陣のせいで、私の神経はさらに追いつめられるようになった。
そんな最中、精神科の先生に、たまらなくなってすべてを打ち明けてしまったことがあったけど…
だけど、そんなことを先生が信じるはずもない。



結局、私は何かとてつもなく恐ろしい体験をして、少し頭がおかしくなったと思われているようだった。



確かに怖い想いはした。
今でも、もしかしたらユーロジアでの出来事は私の妄想だったんじゃないかって思うことさえある。



だけど…
アドルフ様の流した血の生温かさは、今でも鮮明に覚えてる…



あれが幻なんかであるはずがない。



今でも私の心はユーロジアにあった。
せっかく帰って来たのに…私は、あそこへ戻りたくて仕方がなかった。
その想いは、時が過ぎれば過ぎる程大きくなった。



きっと、そうさせるのは、リュシアン様への想いのせいだ。



(私はリュシアン様が好き…)



そのことを最近は痛感している。
今までは自分の気持ちがよくわからなかったけど、今ははっきりとわかる。
私はリュシアン様を愛していたんだ、初めてお会いした時からずっと……


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