夢幻の騎士と片翼の王女
「あ…ああっ…も、もっと……」



リュシアンの部屋から漏れ聞こえる淫らな女の嬌声に、私は思わず眉をひそめた。
まだ陽も高いというのに、あいつと来たら…
まるで、盛りのついた獣のようにいつもいつもあいつは女を抱いている。



リュシアンは、私の義兄にあたる男だ。
なかなか子宝に恵まれなかった国王は、ある時、側室を迎えた。
それも、城の使用人だった身分の低い女だ。
ただ、誰よりも美しい女だったということだ。
その側室と国王との間に生まれたのが、リュシアンだ。
皮肉はことに、その後すぐに正室である私の母親が、私を身籠った。
一年ほどの時を隔て、この国に私とリュシアンという二人の王子が生まれたのだ。



生まれたのはリュシアンの方が早いが、正室の生んだ子である私がこの国を継ぐことになる。
気楽な立場のせいか、リュシアンは若い頃から女にはとてもだらしない。
そして、それを窘める者も誰もおらず、あいつは好き放題に暮らしている。



義理とはいえ、私達は兄弟だが、親しく話をすることさえほとんどない。
それは今に始まったことではない。
子供の頃からずっと、私達は不仲だった。
きっと、あいつは私のことを恨んでいるのだろう。
本来ならば、次期国王になるはずが、私が生まれたがためにあいつはこの国を継ぐことが出来なくなったのだから。
そればかりではない。
あいつの母親は子供を産むと、早々に城を追い出されたという。
あいつはそのことをも恨んでいるのだ、きっと。
だから、王子としての評判をわざと落とすかのように、いい加減な生活をしているのかもしれない。



「あ…あぁ……あ……」

すすり泣きにも似た女の絶頂の声に耳をふさぎ、私は足早にその場所から立ち去った。



いずれ、私はどこかの国の王女を娶り、愛してもいないその女を抱かねばならない。
その時のことを想うと、胸が悪くなった。
私は、アリシア以外の女は愛せない。
何度生まれ変わろうと、その想いは少しも揺らがない。
今まではずっと独り身を通したが、現生ではそうはいきそうにない。
なぜ王子になど生まれて来たのかと、私は自分の人生を恨むことしか出来なかった。
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