夢幻の騎士と片翼の王女
「リュシアン様…どうかなさいましたか?」

「なんでもない。
ゼリア…女は受け取った。おまえはもう戻れ。
リーズ、おまえも出て行け。」

声が震えないように気を付けて、それだけ言った。



「は…はっ!」

二人の足音が部屋から出て行くのを確かめ、俺は女に気付かれないように深呼吸を繰り返した。
無理矢理に心を落ち着けて、俺はゆっくりと振り返った。



今までの努力はもはや意味を持たなかった。
女の顔を見た途端、またさっきと同じように心がざわめいた。
それは、異常としか言いようのないざわめきで、俺は自分の頭がどうにかなったのかと思うほどだった。
初めて会った相手なのに、どこか懐かしく…そして愛しさに今にも胸が張り裂けてしまいそうだった。
一目惚れ…?
まさか…俺は女に惚れたことなんてない。ただの一度も…
俺にとって、女はただの玩具だ。
退屈な時間を紛らせるための玩具だ。
ずっとそうだった…俺が初めて女を知ったあの日から今までずっと…
なのに…なのに、この胸の高鳴りは一体何なんだ?



女は驚いたような…戸惑っているような顔をして、瞳を潤ませ、俺を見ていた。



なぜだ…なぜ、こんなにもこの女にひきつけられる!?



俺は思わず女の頬に手を差し伸べていた。
滑らかな肌の感触…そこに落ちた熱い涙……
女の瞳にはまた新たな涙が溢れていた。



その涙を見ていたら、俺はどうにもたまらなくなって……
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