ヴァージンの不埒な欲望
好きな漫画家さんのエッセイを見つけ、読書スペースで読んでいた。一つの章を読み終え、館内にある時計で時間を確認する。
十二時三分!すでに待ち合わせ時間を過ぎていた。慌てる気持ちを抑えるようにして、静かに席を立って本を元の位置に戻した。
拓夢さん、もう待っているかな?
休憩スペースに行こうとして、読書スペースで本を読んでいる拓夢さんに気が付いた。
私が本を読んでいた読書スペースの、中央にある通路を挟んで反対側の読書スペース。五センチはありそうな厚い本のページを捲っている。
拓夢さんの本を読むその顔が、なんと言うか、私が初めて見る表情(かお)だった。
両方の口角がわずかに上がり、瞳がキラキラしていた。上半身が傾き、身を乗り出すようにして本を見ている。
ワクワク……拓夢さんがワクワクして、その本を見ていると感じた。
本は結構大きめだから、小説ではないだろう。拓夢さんの視線の動きも、細かく文字を追うと言うより、じっくりと眺めてから、ゆっくりとページを捲っているように見える。写真やイラストが多い本なのだろう。見終わっているのは、四分の一くらいかな。
少しの間、楽しそうな拓夢さんを見つめてから、拓夢さんに本を堪能してもらおうと決めた。
さて、私はどうして待っていようかな。
もし途中で、拓夢さんが時間の事を気にしたら……最後まで見てくださいと、声をかけたい。だったら、拓夢さんが見える位置にいなければ。