化学反応検知中


これが、俺が壁を作ってるってことなのかって思った。


思えば、本当に最初からだ。

最初から、俺はマドンナを違う世界の人間かのように思っていた。

どこか違う世界に住む、女神かのように。


だからあのキスを自分の妄想だと信じ込んでいた。

でも彼女は確かに言ったんだ、あの日。

――『キスしちゃったのに何も言わないし』


俺はずっと、彼女が俺なんか相手にする訳ないって思ってきた。

彼女みたいな普通じゃない人が、普通の俺をそういう風に見てくれるはずないって。


これこそ、壁を作ってるんだ。

彼女との間に俺自身が。


ずっと逃げ続けてたんだと思う。

傷つきたくないから。辛い思いなんてしたくないから。

彼女を好きだと言っておきながら、俺は彼女への気持ちからすら逃げてたんだと思う。



――もういい。

彼女が俺のことをどう思っていようがどうでもいい。

あのキスが俺の妄想だろうが、現実だろうが。

もうどうでもいい。


俺は、俺は、

――今まで何一つ、大事なことを伝えていないじゃないか。

< 68 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop