明日の蒼の空
「みんなのふっちゃんにとうちゃくー」

 ベンチに座ったまま、口の中に広がった五円チョコの後味を楽しんでいたとき、小さな男の子が青色の可愛らしい三輪車に乗ってやって来た。

 小さな前カゴに、たあくん号と書かれたプレートが取り付けられている。この男の子と会うのは私は初めて。

「菓絵おばちゃん、こんにちは。遊びに来たよ」
 小さな子供たちは、菓絵さんのことを、菓絵おばちゃんと呼んでいる。

「たあくん、こんにちは。いらっしゃい」
 再びお店の奥の部屋から出てきて、たあくんを笑顔で出迎えた菓絵さんの年齢は、見た感じ、三十歳くらい。私からしてみれば、お姉さんに見えるけど、小さな子供からしてみれば、おばさんに見えるのだと思う。

「ベーゴマの練習をしてきたよ。僕と勝負してくれる?」
 たあくんはそう言うと、三輪車から降りて、半ズボンのポケットから銀色のベーゴマと白色の紐を取り出した。

「いいわよ」
 嬉しそうな顔で応えた菓絵さんは、お店の軒先にベーゴマの台を運んできて、オレンジ色のエプロンのポケットから銀色のベーゴマと白色の紐を取り出した。

 駄菓子屋の店主さんでお絵描き教室の先生でもある菓絵さんのもう一つの顔は、ベーゴマの名人。菓絵さんに勝てる人は、菓絵さんのベーゴマの師匠である祖父さんしかいないとのこと。
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