明日の蒼の空
「蒼衣さんも、ベーゴマで遊ばない?」
 菓絵さんが私を誘ってくれたのは、これで三回目。

「い、いえ……。私は遠慮しておきます」
 菓絵さんがせっかく誘ってくれたのに、今日も断ってしまった。

 ベーゴマに触ったことすらない私が、ベーゴマ名人の菓絵さんと対戦するなんて、一万年早すぎると思う。

「じゃあ、たあくんと私で勝負だね」

「うん!」

 たあくんはやる気満々といった表情でベーゴマに糸を巻きつけて、菓絵さんは穏やかな表情でベーゴマに糸を巻きつけた。

 私はベンチから立ち上がり、使い込まれていそうなベーゴマの台を見つめた。

「準備はいい?」

「いいよ!」

「それじゃあ、いくわよ。せーの!」

 菓絵さんとたあくんが回したベーゴマは、もの凄い速さで回転しながら台の中心に近寄っていき、カチン! カチン! と金属音を立てながら、激しくぶつかり合っている。

 ぐるぐると回り続けている二つのベーゴマをずっと見つめていると、目が回りそうになってくる。どっちがどっちのベーゴマなのか、だんだんわからなくなってくる。

 私が目を逸らしている間に、一つのベーゴマが地面に落ちていた。

「ああ、また負けちゃった」地面に落ちたベーゴマは、たあくんのベーゴマだった。「菓絵おばちゃんは、本当に強いね」

「たあくんとは年季が違うのよ。もっと練習しておいで」

「がんばって練習したのに悔しいなあ。もう一回、僕と勝負してくれる?」

「いいわよ」

 たあくんと菓絵さんは、再びベーゴマに糸を巻きつけた。

「それでは、私はそろそろ失礼します」
 一時を過ぎるとだんだん混んでくるので、私はいつもこのタイミングでお暇している。

「あ、うん。また明日も来てね」

「はい。また明日も寄らせていただきます。どうもご馳走様でした」
 私は菓絵さんに向かって頭を下げて、ベンチに置いておいた手提げバッグとスケッチブックを持った。

「蒼衣お姉さん、ばいばい。またね」
 たあくんが笑顔で私に手を振ってくれた。

「たあくん、ばいばい。またね」
 私は嬉しさを抑えながら、たあくんに手を振って、みんなのふっちゃんを後にした。

 次に向かうのは、東ひまわり公園。
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