明日の蒼の空
 街の図書館で働いている夏美さんの帰宅時間は、いつも六時過ぎ頃。夕食は七時。私は料理を作るのが遅いので、いつも五時半頃から夕食の準備に取り掛かる。

 今日の夕食は、夏美さんが好きなミートソーススパゲッティ。肉じゃが。ほうれん草のお浸し。私の好きな新生姜の甘酢漬け。なめことお豆腐のお味噌汁。デザートは、ついさっき摘み取ったばかりの新鮮なリンゴとバナナ。

 キッチンに立って料理をしていると、姉と一緒に暮らしていた頃の記憶が蘇ってくる。私が作った料理を美味しいと言って食べてくれた姉の優しい笑顔が思い浮かぶ。姉が働いて、私が家事をしていた。

 今は夏美さんのために家事をしている。夏美さんも私が作った料理を美味しいと言って食べてくれる。

「ただいま」
 ほうれん草を洗っていたとき、夏美さんの声が聞こえてきた。私は手紙を持って玄関に向かう。

「おかえりなさい。拓哉さんからのお手紙が届いていますよ」
 仕事から帰ってきた夏美さんに手紙を渡すことも私の日課の一つ。

「ありがとう」
 今日も笑顔で私から手紙を受け取った夏美さんは、ダイニングの椅子に座って、手紙の封を開けた。

 いったいどんなことが書かれているのだろう。夏美さんはいつも明るい笑顔で手紙を読んでいる。たまに声を出して笑うことがある。泣いているところは見たことがない。

 遥か遠く離れたところで暮らしている彼氏さんからの手紙。

 一方通行の手紙だけど、夏美さんは彼氏さんからの手紙を楽しみにしているようで、家に帰ってから真っ先に手紙を読んでいる。

 遠く遠く遠すぎる遠距離恋愛。

 私は男性とお付き合いをしたことがない。彼氏いない歴、二十一年。あと四ヶ月ほどで二十二年。私は告白されたことがないし、告白したこともない。誰かを好きになったこともない。バレンタインチョコをあげたこともない。別に彼氏が欲しいとは思わないけど、大切な彼氏さんがいる夏美さんを羨ましく思うときがある。
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