聖なる夜にくちづけを。

「何のために付き合ってるんだろう」

思わず口から出た言葉が心のすべてだ。
ただ好きだから付き合う。
それが純粋にできてたら、こんな気持ちにはならないの?
彼氏がいることをステータスだとかは思わないけど、結婚に対する意識や子供を持ちたい願望。
いろんな事を考えると、考えてしまう年齢。
“打算”なのか“見栄”なのか。

「好きだから、だけでお付き合いできるのは学生時代の特権かもね」

悪友は綺麗な顔を歪ませ、呟く。
彼女は彼女なりに32年の時を過ごし、一人で生きていく道を選んだ。
それはそれで正解だ。
そして、私が選んだ道もまた、正解なはずなんだ。

「好きだからだけ、か」
「好きなだけなのに、ね」
「好きだから、にリアリティが付く年齢になったってことだよね」
「単純明快だけではすまされないのよ」

純粋な気持ちを忘れた訳じゃないはずだと信じたい。
分かりやすく落ち込む私を、聡子は分かりやすく慰める。
阿吽の呼吸は長年の友情の賜物だ。

「どこが好きなの?」
「……顔」
「顔かよ」
「顔だよ。悪いか!」
「あははっ!分かりやすくて良いじゃん?」

もちろん顔“だけ”じゃないことなんて聡子もわかってて、ふたりでふざける。

「くそー。今日は飲んでやる!」
「いつも飲んでるじゃない」

この話題はおしまいだとばかりに、バカみたいに笑って切り替えた。
切り替えた先の話題はドラマの話に、服の話に、したくない仕事の話まで尽きることはなく夜は更けていく。
ふたりでしこたま食べて飲んで「明日も仕事だー」と、気合いを入れ直して総合駅で別れた。
地下鉄に降りていく聡子を見送り、私も踵を返して改札を抜ける。
ホームに降り立つ頃に、ちょうどよく滑り込んできた電車に乗り込み、空いていた椅子に腰を落ち着けた。
心地よく電車に揺られながら、ひとりの寂しさを忘れたくて鞄からスマホを取り出す。

地元の駅まではまだ、暫くある。


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