聖なる夜にくちづけを。

時間潰しに意味もなくSNSを開いてみたりするけど、どうにもしっくり来なくてやめた。
変わりに、ネット小説アプリを開くと適当にランキング上位のものを開いてみる。
意識をそこに沈み込めるわけでもなく、上部で文字を辿っていく。

10代の頃に流行りだしたケータイ小説が時代の流れに乗り、移り変わった形態に未だに私はしがみついている。
流行りに任せて読み出してみれば、やめるタイミングがわからなくてずるずると暇があれば読んでいく。
コメントを書くことも何もないけど、読み耽るその世界にいる間は孤独感が和らぐから。
考えてみれば、アイドルの追っかけみたいなものかもしれない。
幻想の世界に夢を求めたり、憧れたり、現実逃避をするという点ではきっと同じだ。

描かれる緩く、甘い、まるでお伽噺に意識はやがて集中して、ハッと気付けば間もなく降り立つ駅だった。
ちょうどキリの良いところだったので、そのままブックマークをつけて少しの間流れる景色を見ていた。
流れる景色、といったってキラキラと光るネオンと、対比するように真っ暗闇な川が行くだけで面白いものはなにもない。

味気ないものだ。

ぼんやりと思う。
高台から見れば綺麗な夜景を作り出すはずのネオン。
近くで見るとそれは綺麗と形容するには及ばず、むしろ闇の中で光るそれらは騒々しささえ覚える。

『間もなく~……』

社内アナウンスが流れ、走るスピードが緩やかになったところで荷物を持ち直して立ち上がった。
ガ、タン、と微妙な揺れを残して止まった電車に少しよろめきながら電車を降りた。

少し飲みすぎたかな?
何だかんだで誕生日の夜は“特別”だ。
彼氏がいないならいないでその特別を素直に楽しめるのに。
彼氏がいるのに、ここにいないから“特別”寂しさが募る。
見上げると月は雲に隠れ天候さえも私に意地悪をしたいみたいだ。
ため息を吐いて駅から徒歩10分の住み慣れたアパートに向かう。

こんな時、さっき読んでいたネット小説なら実は帰り道に彼氏が待っていて……なんて展開もあるかもしれないけど、現実は甘くない。
全く何事もなく無事に家に帰り付くと、待っている誰かがいるわけでもなく、扉の向こうはただの暗闇。


< 6 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop