いちごとカルーア【完】
体から力が抜けて、私の中で崇哉との思い出は随分と美化されていたことに気付いてふうと息を吐く。
ちょうどよく運ばれてきたモーニングセットは、サンドイッチに挟まれた卵がキラキラしてて美味しそうだった。
「なんで、今、喫茶店入ろうとなんて言ったの? さよならの流れだったのに」
「んー、なんでかな、高校生に、戻ってみたくて?」
「なにそれ?」
することをして、話すこともなくなって、多分もう会わない予感を抱えながら、子供だった頃してた恋愛が恋しくなったのかな。私も一緒だ。
ひょっとしたら、今もう一度付き合ってってお願いしたら、付き合えるのかもしれない。
高校の時はいちごパフェばかり食べてたけど、今なら気を抜いて、散らかった部屋で二人ごろごろするようなデートができるのかも。
けど私が好きだったのは、高校の頃の思い出と、あのままの崇哉であって、間違えた理想を抱えたまま、再会してしまったんだなあと思う。
思い出は思い出であって今起きてるいるリアルじゃないように、私の気持ちも、時間をかけて脚色された過去のものであったことを思い知った。
サンドイッチは美味しかった。デザートにいちごパフェは食べないし、彼も勧めてこなかった。
食後のコーヒーが美味しくて、私はこの苦味にありつけたことが、少しだけ嬉しいような、悲しいような不思議な気持ちがした。
-いちごとカルーア fin.-
