熱愛系エリートに捕まりました
でも、そうして俺が現状に対して目を瞑ってしまったとき…


「やめてください!この人、痴漢です!」


乗せている人数の割に、誰もほとんど喋らないせいで静かな車両に響き渡った女性の声。

あの女性が動いたのかと思いきや、咄嗟に顔を上げて見てみると、痴漢の手を掴んでいたのは被害者の隣に立つ別の女性だった。


明るすぎない程度の茶色に染められた髪は肩の下あたりにまで垂らされ、パーマがかかっていて緩やかな曲線を描いている。

愛嬌のある顔立ちだが、メイクのせいか色っぽさもあり、人目を惹くほどではなくても一度気づけば見惚れたくなるような、不思議な魅力を秘めていた。

でも今は、可愛らしい丸い目を吊り上げて痴漢を睨み上げている。

その意志の強い瞳に、ハッとさせられた。


痴漢は焦って「ふざけんな!俺じゃねぇ!」などと喚き、満員の車内で身を捩って掴まれた手を振り払おうとする。
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