蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
二 想い出の嵐山
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

……頭、痛い……

 ずきん、ずきんとする痛みで気がついた。

 あ、目の前真っ暗。

「君、大丈夫?」

耳元で、聞いたことのない声がして、ゆっくりと目を開ける。
見たことのない、自分や周りの友人たちより少し年上の(でも大人とは言えないような微妙な年齢の)男の人がいた。

「はい」

慌てて身体を起こそうとする、が、それを制止される。

「もうじき薬師が来る。
 動かないほうがいい」

有無を言わせないような、強い口調。
それが妙に板についていた。
まだ、子供なのに。

ふふ、と、思わず笑う。

「笑えるくらいなら、大丈夫だな」

彼がほっと、息を吐いた。

空は綺麗な橙色に染まっている。
さっきまで、青かったのに。

 僕、何をしてたんだっけ。

緑の上に寝転んだまま、ゆっくり記憶を辿る。

 友達とかくれんぼしていて、藪の中に入って……

 ああ、そこから落ちたんだ。


「東宮様っ」

太目の薬師が慌てた様子で息を切らして駆けて来た。

「なんだい、ずいぶん時間がかかるんだな」

東宮、と呼ばれた彼は子供らしからぬ涼しい目元で笑った。

「いえ、その。
 あの」

薬師はしどろもどろになっている。

「宮(みや)様がお落ちになったと伺いまして、はい」

「私が?
 まさか。
 落ちるほど高いところにはまず行かないね。
 それより、この子。
 拾ったんだ、見てやって」

「はい、ただいま」

薬師の所見では、【異常なし】ということだった。

 僕に記憶がないことを除けば。

「ねぇ、なんて名前?」

【東宮様】が好奇心に満ちた目で聞いてくる。

「僕、その。
 ……わかんない」

消え入りそうな声で、答えるのが精一杯だった。



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