蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「どうしよう、夜になる」

橙色だった空は、その後真っ赤に染まり、ついには色を消そうとしていた。
【僕】は、薬師におぶられて近くの豪邸へと連れられた。

豪邸、というのもおかしな表現だが、嵐山の中に建っているのが似つかわしくないくらい素敵な建物だったのだ。
調度品も皆、一流である。

「ここにいればいい」

「君、誰?」

助けてくれた【東宮】に、【僕】が問いかける。

「鷹彰(たかあきら)」

聞いた後、【僕】は思い切り膝に顔を埋めてしまった。

 僕には名乗る名前がない……

「名づけてあげるよ。
 緑(みどり)ってどう?
 さっき、そこで君を見つけたとき、緑の妖精だと思ったんだ。
 本当にそうかもしれないし?」

鷹彰の探るような目線が冗談かどうか見抜けなくて、緑は苦笑した。

「ありがと。
 なんかしっくりくるね、僕に丁度いい感じがするよ」

緑は、そのまま鷹彰の家に居候することになった。



「僕、突然増えて邪魔じゃないですか?」

夕食を食べながら緑は周りの大人たちに伺った。

「とんでもない。
 東宮様があんなに楽しそうにしてらっしゃるんですもの。
 いつまでも居ていただきたいくらいよ」

一人の女房の言葉に、お付の者たちが頷いている。

 これだけの大人に囲まれて、子供一人なんて楽しく出来なくて当たり前だよ。

そう思ったけれど、口には到底出せなかった。
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